ビジネス

「改憲なら第8章(地方自治)を論じよ」と大前研一氏 小選挙区制が生んだ“課長クラスの議員”に国家戦略は語れない

小選挙区制の弊害が浮き彫りに(イラスト/井川泰年)

小選挙区制の弊害が浮き彫りに(イラスト/井川泰年)

 岸田文雄・首相が憲法改正に意欲を見せているが、『君は憲法第8章を読んだか』の著書がある経営コンサルタントの大前研一氏は、憲法改正の争点は「9条」でも「緊急事態条項」でもなく、喫緊の課題は「国の統治機構の刷新」と指摘する。以下、大前氏が解説する。

 * * *
 前回(週刊ポスト2024年4月5日号)は、岸田文雄首相が「自分の総裁任期中に(憲法)改正を実現したい」と言いながら、いまだに条文起草のための機関の設置もできておらず、的外れで不要不急の改憲論議を続けている現状を批判した。


(参考)前回記事:憲法改正の争点は「9条」でも「緊急事態条項」でもない、喫緊の課題は「国の統治機構の刷新」 大前研一氏が指摘

 私自身、これまで『新・国富論』『平成維新』『君は憲法第8章を読んだか』などの著書で憲法改正(正確にはゼロベースで憲法を考える「創憲」)を主張してきた。それは、日本国憲法が規定している国の統治機構に関する条文──とくに第8章「地方自治」──に問題があり、今の日本が低迷する原因にもなっているからだ。現在の憲法では、我々が日ごろ「地方自治体」と呼んでいるものは「地方公共団体」としか呼ばれておらず、自治の権能を持たない「国の出先機関」にすぎない。

 これは、企業で言えば、経営にとって最も重要な「組織運営体系」が脆弱で、地域や部門ごとの展望や戦略、実行計画がないために、中央が無策だと組織全体が衰退していく状態と言える。この変革こそが改憲の喫緊の課題だと指摘した。

 この問題は、今の選挙制度とも密接に関連している。30年前の1994年、衆議院議員選挙では従来の中選挙区制が廃止され小選挙区制が導入された。「政権交代が起きて健全な議会政治ができる」という触れ込みだったが、実際に政権交代して民主党政権になると、迷走続きの政権運営に批判が高まり、再び自民党政権に戻ってしまった。

 結局、小選挙区制の弊害として、人口25万~50万人の“おらが村(選挙区)”への我田引水しか考えない小粒な議員ばかりになり、経済・外交・防衛といった日本の長期的な課題に国政レベルで取り組むスケールの大きな政治家がいなくなったのである。

 衆議院選挙(定数465人)では、小選挙区のほかに全国を11ブロックに分けた比例代表選出議員もいるが、選挙区で敗れたのに比例復活する“ゾンビ議員”も多く、やはり天下国家を論じられる代議士を選出する仕組みにはなっていない。

次のページ:小選挙区制の弊害は「企業経営」に置き換えて考えるとわかりやすい

注目TOPIC

当サイトに記載されている内容はあくまでも投資の参考にしていただくためのものであり、実際の投資にあたっては読者ご自身の判断と責任において行って下さいますよう、お願い致します。 当サイトの掲載情報は細心の注意を払っておりますが、記載される全ての情報の正確性を保証するものではありません。万が一、トラブル等の損失が被っても損害等の保証は一切行っておりませんので、予めご了承下さい。