2024年の中学受験者数は前年よりやや減少したものの、受験率は過去最高となった。各家庭は受験を成功するために、塾に加えて個別指導塾や家庭教師を利用するなど、さらなる「課金」を迫られる場合もある。その効果のほどはどれぐらいものか。『中学受験 やってはいけない塾選び』が話題のノンフィクションライター・杉浦由美子氏がレポートする。【全5回の第5回。第1回から読む】
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過熱する中学受験。中学受験にかかる費用は3年間で300万円が相場だが、500万円、600万円と多額をかける家庭が目立つようになっている。
不思議なのは金銭的に余裕があっても「個別指導や家庭教師は使わない」という家庭もあれば、世帯年収がそれほど多くないのに個別指導塾に課金して、500万円、600万円と注ぎ込んでいく家庭があることだ。
その課金額は「熱意」の差なのだと思っていた。しかし、そうではない側面があることも見えてくる。
前回に引き続き、目黒区に住む共働き家庭のA子さんが、重課金コースに陥っていった過程を紹介しよう。
一コマで1万6000円の個別指導塾
難関校対策に長けた中学受験塾・グノーブルに通う息子の学習フォローができなくなってきたので、個別指導塾の利用を検討し始めたA子さん。
自分たちより世帯年収が高くないであろう家庭のママ友から薦められた個別指導塾に行って料金表を見て驚く。指定された講師の授業料は1コマ1万6000円ほどだった。きっと反対するだろうと思っていた夫の口からは、「今どきはそれが相場じゃないのか」と想定外の言葉が出てきた。
夫や子どもが寝たあとに、ダイニングで個別指導塾の価格表を眺めていた。講師によって授業料が違う。最低で一コマ1万3200円、最も高い講師は一コマ2万6400円。「今、空きがあるのはこの講師です」といわれた講師の授業料は一コマ1万7600円。
この塾を薦めてきたママの口調はまるで、「白髪染めを家でやってるの? お店でやった方が楽だし、仕上がりが全然きれいだし長持ちもするわよ。私が通ってる美容院、紹介しようか」と当たり前のことをいっているような気軽な感じだった。実際、この個別指導塾を使っているという話は他のママたちからも実によく耳にしていた。有名な高級個別指導塾だったのだ。
そのうちのひとりがグノーブルで一緒の男子だ。最初は下の方のクラスにいたが、成績が上がって、いつのまにか追い抜かれた。「頑張っているのね」とママに声をかけると、「個別指導に週に3回通わせているの」といって、苦笑いをした。