2024年の中学の受験率は過去最高を記録。そんな中学受験の盛り上がりを支えているのが、SAPIXなどの大手塾の存在だ。親たちは塾選びをどのような観点で行い、塾に何を期待しているのか。『中学受験 やってはいけない塾選び』が話題のノンフィクションライター・杉浦由美子氏がレポートする。【SAPIXと夢・全3回の第3回。第1回から読む】
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中学受験はやってみないとどこまで伸びるか分からない。そこで「うちの子は中学受験に向いているかも。SAPIXに入れたら難関校に合格できるかもしれない」と夢を見る親も実に多い。今どき、庶民が夢を見られる数少ないコンテンツのひとつが、中学受験であり、SAPIXなのだ。
専門商社事務職のA子さん(40代・世田谷区在住)は、自分が中学受験の時に憧れた神奈川の難関校、フェリス女学院に娘を通わせたいと夢見て、SAPIXに入れた。しかし、娘のクラスはどんどん落ちてきてしまった。SAPIXのクラスは上位がα1,α2、α3……と続き、その下にアルファベットクラスがあり、最も下のクラスはAクラスとなる。
A子さんの娘は入塾当初は上位クラスにいたが、その後はアルファベットクラスの真ん中になった。そんなとき、小学5年から6年に進級するタイミングで、夫が放った一言に、A子さんはとても傷ついている。
「αクラスにいないならSAPIXの意味はないから転塾をさせたら」
娘のクラスが落ちてきて、頭を抱えているA子さんにとっては、許せない一言だった。A子さんはこう反論をした。
「そんなことはない。下の方のクラスでも、SAPIXなら中堅上位のいい学校に入るもの」
すると夫はこう返してきた。
「中堅上位の女子校なら、他の塾でいいんじゃないか。面倒見のいい塾だったら、自習室で勉強できるし、分からないところも教えてくれる。俺も君も楽になる」
そういって近所に校舎がある大手塾の名前をあげた。御三家の合格者が何年も出てないような校舎だ。A子さんは泣きそうになった。