どんなに仲睦まじい夫婦でも、いつか死別する日が来る。その事実から目を背け続けていると、いざ配偶者に先立たれた時、押し寄せる数多の難題に対処できない。ひとりになったらどう生きるか、今のうちに夫婦で話し合い、準備を始めなければならない。
弱っていく妻に「通帳はどこ?」などとは聞けず…
夫婦のどちらかはいずれ先に亡くなる。何も準備をせずその時を迎えると、残された者は様々な苦労を強いられる。
2008年に妻の恵子さんを食道がんで亡くした評論家の川本三郎氏(79)が振り返る。
「深い精神的なダメージとともに、実生活上の不便が大きかった。弱っていく家内に『預金通帳はどこ?』などとは聞けません。銀行からの手紙で、初めて取引銀行を知るといったことが半年ほど続きました。亡くしてからは妻の預金通帳を私の名義に変更するための手続きなど、一時は雑事に追われました。
ある程度の年齢になったら元気なうちにお互いに今後について話し合っておいたほうがいいと思います」
今でも「妻が作ったきんぴらごぼうや麻婆豆腐の味が恋しい」と話す川本氏は、親しい編集者など周囲に助けられながら料理や洗濯、掃除といった家事を覚えていったという。
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