「経済的な不安定」「子育てと仕事の両立の難しさ」「賃金格差」──少子化にまつわる議論では、まるでこの国がいま、“お先真っ暗”で未来への不安を抱えているかのようなワードばかりが並び、現役世代にそこはかとなくプレッシャーを与えている。しかし、少子化によって人口減少する日本の未来は、本当に“最悪”といえるのだろうか。加速する少子化がもたらす“この国の新しいカタチ”を考えていきたい。【全4回の第3回。第1回から読む】
「より遅く、より近く、より寛容に」を目指す
少子化と人口減少は、労働の転換以外に日本に何をもたらすのだろうか。『人口減少社会のデザイン』の著者で、京都大学人と社会の未来研究院教授の広井良典さんが見出すのは「人々の価値観と社会デザインの変化」だ。
「昭和の日本は、経済成長というゴールをめざして山頂に続く一本道を集団で登っていました。多様性には一瞥(いちべつ)もくれずに、人口も経済も右肩上がりで一本道を突き進んでいたんです」
しかし平成途中の2008年をピークに人口は減少に転じ、令和の現在にいたる。
「人口減少が本格化する令和の時代は、拡大成長をめざした昭和の発想から解放され、一人ひとりが自由に自分の人生をデザインできるようになります。集団で一本道を登って山頂にたどりついたら、視界が360度パーッと開けて、個人が自分の道を選べるようになったイメージです。このように昭和的発想から自由になって一人ひとりが自分の可能性を伸ばしていければ、人口減少社会への転換はむしろポジティブな希望になります」(広井さん)
経済学者で、『次なる100年:歴史の危機から学ぶこと』の著者である水野和夫さんも、これまでの資本主義とは異なる経済原理を持つ社会の到来を期待する。
「資本主義の行動原理は、“より速く、より遠く、より合理的に”でした。日本は明治維新以降、この原理に基づいて、情報、自動車、電気機械産業といった分野で世界に台頭し、諸外国を追い抜いて事実上の1位になった。トップに立ってなお一生懸命やっているから過剰性が出てしまう。
でも、人口減少とともにやって来るのは、“より遅く、より近く、より寛容に”をめざす社会です。経済成長や利潤の獲得をめざさず、人口は少なくても、人が、近くにいる人と助け合うような、寛容な社会となることを期待します」(水野さん)