白内障、老眼といった目の病気は、年齢を重ねるほど発症率が高まる。なかでも60代で70~80%、70代で80~90%が罹患するとされるのが白内障だ。目のレンズの役割を果たす水晶体が白く濁る病気で、視界がぼやける、文字や物が二重に見えるといった症状が現われる。
治療の第一選択肢となるのが、水晶体を除去して「眼内レンズ」を入れる手術だが、そのレンズの選び方によって医療費に大きな差が出る。二本松眼科病院副院長の平松類医師が説明する。
「主流である『単焦点眼内レンズ』は保険適用のため、治療費の目安は片目で約1万2000~3万6000円程度となります(1~3割負担)。
ピントが合う距離が1点のみの単焦点に対し、2点以上でピントが合う『多焦点眼内レンズ』があります。こちらは選定療養といい、手術代は保険適用となる一方、片目で20万~40万円程度のレンズ代が自己負担となるため、治療費は大幅にかさみます」
(以下、図表で「眼科治療で医療費を削減する選択肢」を紹介)
利便性を優先して多焦点眼内レンズを選ぶ人は多いが、注意点もある。
「多焦点眼内レンズは構造が複雑なため、暗くなってから電灯や車のライトが散乱して見えたり、ライトの周りに丸い輪状の光が見えるようになったりする人もいます。本来であれば、そうしたデメリットを理解したうえで多焦点眼内レンズを選ぶべきですが、事前に医師の説明が少ないケースが散見されます。
術後に『目がギラギラするようになった』と悩み、単焦点眼内レンズへの再手術をする人もいる。夜に運転する機会の多い人などは、単焦点眼内レンズにすれば医療費を抑え、安全性が確保できます」(平松医師)
眼内レンズを入れる手術は医師の手によって行なわれるが、単焦点眼内レンズでは、より高精度な「レーザー手術」を提示されることがある。レーザー手術は自由診療となるため、片目当たり25万~45万円程度、費用が高くなる。ただし、平松医師は「費用対効果を考えればメリットが少ない」と指摘する。
「たしかにレーザー手術は人の手よりも精度が高く、術後の合併症リスクも減らせますが、そもそも白内障の手術は合併症のリスクが高いわけではなく、入れ替えるレンズは同じなので術後の見え方も変わりません。眼科医からレーザー手術を勧められた場合、なぜ必要なのか、保険適用の手術ではいけない理由などを尋ねてみると良いでしょう」
「バイオ後続品」を選ぶ
早ければ40代から症状が出始める老眼(老視)では、ICL(眼内コンタクトレンズ)を入れる治療法がある。ICLは老眼だけでなく近視・遠視・乱視の症状も一度に矯正できることがメリットとされ、治療費は片目で50万円程度(自由診療)となる。だが、平松医師はこう指摘する。
「60代以上の老眼用ICLは慎重になるべきです。60代になると白内障になる人が多く、白内障の眼内レンズを入れるために、老眼用ICLを取り外すことがあります。40代で老眼を発症した人なら、老眼用ICLのメリットを享受できる期間も長いですが、60代以上だと術後すぐに白内障を発症する可能性がある」
発症すると生涯にわたって治療が必要となるのが、加齢黄斑変性だ。
「進行すると失明につながる病気です。目に直接注射することで視力の低下を防ぎ、進行を遅らせる治療を行ないます。最初の3か月程度は毎月注射し、その後は2~3か月に1回の頻度で継続します。基本的には加齢とともに進行する病気なので一生注射を続けることになりますが、お金の問題で治療をやめてしまう人も多い」(同前)
注射する「抗VEGF薬」の薬価は1回当たり13万円超と高価だが、平松医師は「先発医薬品から、バイオ後続品(バイオシミラー)に替えることで医療費を抑えられることもある」と指摘する。
「先発薬の『ルセンティス』から、バイオ後続品の『ラニビズマブBS』に替えると、自己負担額にして1回当たり3万4000円ほど医療費が安くなります(両目で3割負担の場合)。バイオ後続品への変更を主治医に相談してみましょう」
※週刊ポスト2024年10月11日号