日本経済が資本主義の上に成り立っていることは疑いようのない事実だ。しかし「資本主義」がどんなものなのか、しっかり理解できているのだろうか──。資本主義の本質に迫る経済学者・岩井克人氏の話題書『資本主義の中で生きるということ』(筑摩書房)を経済アナリスト・森永卓郎氏が読み解く。
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本書は、最も偉大な経済学者、岩井克人氏のエッセイ、新聞連載、インタビューなどを取りまとめたオムニバスだ。そのため、口語体から論文調まで表現もさまざまで、難易度も文章によって異なっている。ただ、本書が一貫して追求するテーマは、資本主義とは何か、そして、それとどう付き合うべきかということだ。
著者は、資本主義の本質を「投機によって成立しているシステム」だと喝破する。本来の価値とは無関係に、欲しい人がいれば、無制限に価格は上がっていく。最近の事例で言えば、エヌビディアの時価総額が日本のGDPと肩を並べるという事態で、それがバブルだ。ただ値上がりは永久には続かない。一度バブルがはじけると、買い手が不在となり、とんでもない勢いで価格が下落する。著者は、その現象をパニックと呼んでいる。バブルとパニックの繰り返しが資本主義の宿命なのだ。
数年前から、私は米国株が史上最大のバブルを起こしていて、いずれ10分の1程度に大暴落するという予想を掲げて、袋叩きにあっている。その理由は、資本主義に盾突いているからだろう。投機家にとって本来の価値など、どうでもよいことだ。彼らの関心は、値上がりによるキャピタルゲインを得ることだけだ。そこに水を差すような発言は許せないのだ。
もちろん、行き過ぎたバブルは、その反動としてのパニックを必ず引き起こす。それは、デフレや恐慌につながって、国民生活を破壊していく。私が『バブルとデフレ』という書籍を書いて、デフレ脱却のためのインフレターゲットを主張したのが四半世紀前だが、ほぼ同時期に著者が同じ主張をしていたことを本書で知って、経済学の偉人に失礼ながら、親近感を持ってしまった。当時、インフレターゲットは、俗論として、世間の非難の的だったからだ。
著者が主張する資本主義との付き合い方は、適切な金融政策で、インフレでもデフレでもない状態を続けることだが、残念ながら、いまの日銀はそれが分かっていないようだ。
※週刊ポスト2025年1月17・24日号