肥満は糖尿病や高血圧発症のリスク因子だが、そこに睡眠時無呼吸症候群(SAS)を併発するとさらに生活習慣病が進行するという。そうした中で、最近では夜間に浴びるブルーライトが原因で、「現代型の不眠障害」も急増している。生活習慣病にもつながりかねない睡眠不足を解消するにはどうすればよいか──。シリーズ「名医が教える生活習慣病対策」、日本で初めて睡眠科を立ち上げた広島大学医学部・塩見利明客員教授(愛知医科大学名誉教授)が解説する。【現代の不眠障害は“生活環境病”・後編。前編から読む】
日本人は太ってなくてもSASを発症しやすい
SASを発症させる生活習慣には、食べ過ぎ、運動不足、喫煙、子供の頃からの口呼吸習慣などがあります。日本人は下顎が小さい(小下顎)人が多く、太ってなくてもSASを発症しやすいといわれます。
私の恩師でありSAS研究の第一人者のスタンフォード大学の故クリスチャン・ギルミノー先生は晩年、「成人になってからSASと診断され、治療を開始しても手遅れです。これからは幼少時期からの鼻呼吸習慣の獲得と成長期における適切な下顎発育のためのサポートが、成人におけるSAS発症の予防として肥満対策と同程度に重要です」と強調していました。
成人でSASと診断された場合、治療の第1選択肢はCPAP(シーパップ)療法(経鼻的持続陽圧呼吸療法)で、1998年から保険診療になっています。CPAPは、本体からエアチューブを通し、鼻に装着したマスクから気道へ空気を送り込む装置です。寝ている間に強制的に空気を送り続けるので無呼吸の状態を防ぐことができ、良質な睡眠をとることができます。
不眠障害の原因は夜間に浴びるブルーライト
愛知医科大学病院の睡眠医療センターには、SAS以外の不眠障害の人も数多く受診されていました。従来の不眠障害は、入眠困難(=寝つきがわるい)、中途覚醒(=途中で目が覚める)、早朝覚醒(=早く目が覚める)などが原因で、昼間の眠気や疲労、やる気の低下などが起こります。
もともと不眠症は「こだわりが強いタイプの中高年」が多かったのですが、5年ほど前から若い会社員、あるいは不登校の中高生という「現代型の不眠障害」が急増しています。「夜眠れないため、朝起きることができない」「昼間に眠気に襲われ、集中力がなくなる」といった症状を訴えます。
こうした若い人の不眠障害の一番の原因は、夜間に浴びる(=曝露)ブルーライトです。ブルーライトはパソコンやスマホ、電球などで使われるLED発光ダイオードから発する光です。LED発光ダイオードは節電効果があり、コストパフォーマンスに優れていることからも広く普及しています。
そもそもブルーライトは太陽から発する光の1つで、朝起きて太陽のブルーライトを浴びると網膜が感知して体内時計をリセットするという有益な働きがあります。しかし、ブルーライトが目の網膜にあるメラノプシンという細胞から入ると、脳の松果体で合成されるメラトニンの分泌を抑制することが明らかになりました。メラトニンは、睡眠に深く関わるホルモンです。
就寝する直前まで網膜がブルーライトを浴びると、寝つきも悪くなり熟睡できず睡眠不足となり、体内のリズムも狂ってきます。その結果、朝になってもすっきりと起きることができず、疲労が取れない。これが最近の若い人に多くみられる不眠障害で、現代の“光環境”がもたらした「生活環境病」と言えます。