65才未満で発症する若年性認知症は高齢者のそれとは違う課題がある。近藤英男さんは働き盛りの57才の時に認知症と診断され、人生の道は急カーブを切った。それでも今、毎日が充実しているという。女性記者Nが、近藤さん、そして妻・小夜子さんに話を聞いた。
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「認知症と診断されたのは57才の時ですが、その2~3年前から独り言やため息が増え始め、心配はしていました」(妻・小夜子さん)
神奈川県在住の近藤英男さん(66才)は当時、バリバリの営業マンだったが、ミスが続き、簡単な事務処理にも時間がかかるようになっていた。
うつを疑い、心療内科を受診したが改善せず、56才で営業職を外された。その後、会社の人のすすめもあり、認知症外来を受診して初めてアルツハイマー病と診断された。
「それはショックでしたよ。そんなはずはないと思ったけれど結果がそう出ていた」と、近藤さん。9年たった今、記憶障害は進んだが、告知の衝撃は胸に刻まれている。
「ただ、同時に“認知症”という世界に興味も抱いたんです。なってしまったのだから先へ進むしかない。自分の知らない世界をのぞいてみようじゃないかって…まあ、うろ覚えなんですけど(笑い)」
近藤さんが当時の心境を語る言葉はとても明瞭だ。
「あの頃は情報がなく相談先もわからず。とにかく夫の元気な部分を維持しようと必死で、絶望しているヒマはなかったです」(小夜子さん)