「元気なうちはできるだけ働きたい」と考えるシニアは増えている。しかし、年を重ねると誰しも身体機能が低下する。高齢層を長く働かせたい政府は表だって言わないが、長く働くことで逆に健康リスクが高まることは、データでも裏付けられている。
働く高齢者の労働災害が増えているのだ。超高齢化とそれに伴う企業の雇用延長の影響で65歳以上の労働人口は875万人に達し、10年前より309万人も増えた。
それに合わせるように高齢者が仕事中に怪我をしたり、事故に遭う労働災害事故が増え、2018年は労災件数全体の4分の1以上(26.1%)が60歳以上だった。10年前と比べると8%も増えている。中でも高齢者に目立つのが転倒事故。50代では労災のうち約30%だが、60歳以上の労災事故の約38%が転倒だった。
長く働くなら、体調に留意して短時間勤務など勤務条件を調整することが重要になるが、半面、収入が下がるのを覚悟する必要がある。国は「一億総活躍社会」のスローガンを掲げ、意欲のある高齢者は年齢に関わりなく何歳になっても働ける社会をつくるというが、「健康で長く働く」のは容易ではない。
政府が「働き方改革」で掲げるスローガンは「75歳まで働けば老後は安心」というものであり、厚労省もそれに合わせて年金改革で現在の70歳繰り下げ受給の年齢上限を75歳まで延長する方針だ。だが、日本人男性の健康寿命は平均72歳。「オレは75歳まで働く」と考えていても、労災で健康寿命を縮めてしまっては本末転倒だ。
※週刊ポスト2019年10月11日号