テレビで活躍するお笑い芸人たち。もっとも視聴者は、どの芸人が先輩で、どの芸人が後輩かということを気にする人は少ないだろう。しかし、多くの芸人は先輩後輩の関係を非常に気にしている。たとえば落語家は、1日でも早く師匠に入門した方が先輩になるという世界だ。最近のお笑い芸人は、誰かの弟子になるというケースが少ないため、そこまで厳密なルールはないが、それでも年下の先輩、年上の後輩というのも当たり前のように存在する。
特に先輩後輩に厳しいと言われるのが吉本興業だ。吉本にはお笑い養成所のNSCという学校があるので、先輩後輩という関係が明確になる。NSCでは「挨拶をする」ということを最初に教わる。この挨拶も独特だ。「〇〇期生の××です」というようにNSCの何期生であるかをはっきり伝える。これによって、相手が自分の先輩なのか後輩なのかがすぐにわかり、関係性を作りやすいというわけだ。
吉本の場合、飲み会などのお会計は先輩が出すというのが不文律なので、売れていない先輩の立場になると借金をして後輩に奢るということもある。今は芸人を辞めて会社員として働いている元吉本の芸人Aさん(30代男性)に話を聞いた。
「NSCを卒業したころは周りに先輩ばかりだったので、飲みに行っても奢ってもらうことが多かったのですが、売れないまま芸歴を重ねてしまい、飲み会に行くと自分が一番上であることが多くなっていきました。先輩から奢ってもらったときは『いずれ、後輩に還元してあげて』と言われていたので、いくらお金がなくても自分が先輩だったら後輩の分は奢るようにしていました。
でもなかなか芽が出ないと、それも厳しくなってくる。最後の方はライブの打ち上げなどには顔を出さなくなってしまいました……。慕ってくれていた後輩が一気に売れたときは、気を遣って『僕がお金出すので飲みに行きましょうよ!』と言ってくれたのですが、飲み会は楽しくても、終わってから毎回切ない気持ちになりましたね。自分も売れて、お金を気にせず後輩を飲みとか旅行に連れて行きたかったです」