総務省の調査によれば、無職の高齢夫婦の平均支出は月26.4万円。一方で、受け取れる公的年金等の額は20.4万円だという。さらに、今後、年金受給額も減るとの観測も多く、受給開始年齢を60~64才に前倒しする繰り上げ受給を選ぶ人が多いのが現状だ。
遅く受け取る代わりに受給額がアップする繰り下げ受給には、デメリットも少なくない。まず、制度的な落とし穴だ。「年金博士」ことブレインコンサルティングオフィス代表で社会保険労務士の北村庄吾さんが言う。
「実は繰り下げ受給は“予約”ができません。繰り下げるためには、66才以降、受給したいと思った時に年金事務所に手続きに行く必要がある。その頃にボケていたり、体が思うように動かなくなっていたり、なんらかの事情で手続きができないと、受給できないんです(北村さん。以下、「」内同)」
政府はどうしたら国民に年金を払わずに済むかを考えるのに躍起だ。そのために“狙い撃ち”されたのは、サラリーマンの夫を持つ専業主婦(第3号被保険者)の年金だった。
「会社員の夫がいれば年金保険料を免除されるため、『無職の専業主婦はズルい』とか、『第3号被保険者なんて制度があるから女性が働かないんだ』とやり玉に挙げられていて、いずれ廃止されるのは規定路線になっている。政府は本心では、全国に約870万人いる第3号被保険者に年金を払わずに済めば、年金財政は楽になると算盤を弾いているはずです」
そんな風前の灯火ともいえる第3号被保険者ならば、「制度が廃止される前に早く年金を受け取りたい」と考えるのも妥当だろう。この点でも繰り上げ受給は有効だ。
少しでも多くの年金を受け取ろうと、割合はまだ少ないとはいえ、繰り下げ受給者がここ5年間でじわじわ増えているという。その背景には政府のゴリ押しが見え隠れしていると北村さんは言う。
「受給予定者の家には、定期的に『繰り下げ受給の方がお得ですよ』という旨の書かれたパンフレットが届きます。国がそうして繰り下げ受給を勧めているのは、年金の支払いを先送りして年金財政が悪化するのを先延ばしにしたいからだと考えられます」