親の異変、それは突然やってくる。「食堂のおばちゃん」作家として知られる山口恵以子さん(61才)が、最愛の母・絢子(あやこ)さん(享年91)と過ごした最期の日々をあたたかな筆致で綴った新著『いつでも母と』(小学館刊)を読むと、母の認知症発症から介護、自宅での看取りまで、戸惑いと不安の中、家族が決断しなければならないことがいかに多いかがわかる。
山口さんは3人きょうだいの末っ子で兄が2人。上の兄、山口さんと同居していた母に、認知症の症状が顕著に表れるようになったのは2000年のこと。父の急死が引き金になった、と山口さんは話す。
山口さんの介護は、2019年1月に母が亡くなるまで約19年間にわたって続いた。だが、介護認定を受けたのは2009年だった。知人から「お母さんは介護認定を受けた方がいいんじゃない」と勧められるまで、介護保険の利用を考えたことすらなかったという。
「母は自分の足で歩けたし、たまに粗相はするものの、食事もトイレも入浴も介助なしでできました。私が想像する『介護保険のご厄介になる老人』とは違っていたのもあり、そのまま10年も過ごしてしまったんです。介護認定後は、地獄から天国というくらい格段に楽になったので、もう少し早く使っていればよかったのに、と後悔しました」(山口さん)
山口さんのように、介護保険の存在自体は知っていても、実際に活用できない人も多い。初めての介護なら、どのサービスを受けられるのかさえわからないこともある。介護・暮らしジャーナリストの太田差惠子さんは「親の介護に必要なものは、時間ではなく情報」だと話す。
「介護では情報を入手し、効率的に時間を使うことが重要です。まず介護サービスの種類や利用法、職場の介護支援策を調べましょう。いざ介護が始まると、目先の問題を解決することで精一杯になってしまいがち。できれば親がある程度元気なうちから、地域包括支援センターに連絡しておくと安心です。
高齢者や家族の抱える悩みについて、ケアマネジャー、社会福祉士など介護のプロが相談にのってくれるので、介護が始まる前からサポートしてもらえます」(太田さん)