大型台風により多摩川が氾濫し、川の水がJR武蔵小杉駅の前に立つタワーマンションに浸水したのが昨年10月のこと。地下にある配電盤が水に浸り、停電と断水が続き、住人たちは自室ですら「トイレ禁止」となった。
そうした台風被害による風評の影響か、リクルート住まいカンパニーが発表した「2020年版住みたい街ランキング」では、前年の9位から20位に急落。住宅ジャーナリストの榊淳司氏が語る。
「被害に遭ったマンションは、台風のあと仲介事業者専用の物件登録サイトで確認したところでは一軒も取引が見当たりません。他のマンションを含めて、さらなる水害を恐れて明らかに購入を避けられています。タワマンに住んでいるのは、『ニューカマーのプチ成功者』が多く、もともと“ムサコ”で暮らしていたという人は少ない」
武蔵小杉は2000年代に入ってマンションの乱立と共に駅前の再開発が進み、朝のラッシュ時にはJRの駅改札に何十メートルも行列ができるほど人気の街に。その評価が台風被害により一変した格好だ。
だが、人気急落に安堵する“ムサコ住民”もいる。この地に生まれ育った40代の女性がこう話す。
「いたるところで再開発の工事をしていて、ぜんぜん終わらない。もともと武蔵小杉は庶民的な店が愛される町。新しくオシャレなカフェができたかと思えばすぐにつぶれていく。それもこれも、タワマンが乱立して、人が増えてしまったことが要因でした」
何十年もこの地に暮らす人たちと、タワマンの新興住民――住みたい街ランキングの急落への反応から、両者の“溝”が改めて垣間見えた。
※週刊ポスト2020年4月3日号