3月末に定年退職した「校則をなくした校長」として知られる東京・世田谷区立桜丘中学の前校長・西郷孝彦さんは、子供に干渉しすぎる「過干渉」を減らす取り組みをしてきた。西郷氏と教育評論家の尾木直樹さんらとの共著『「過干渉」をやめたら子どもは伸びる』(小学館刊)は、過干渉をやめたとき、子どもが成長をみせる理由について解説している。
「過干渉」の線引きは難しい。子どものことを心配するのは、教員にとっても親にとっても、当たり前の感情でもあるからだ。将来を心配するあまり、つい「勉強しろ」「いい学校に行け」と口をついてしまう。その何が問題なのか──。
尾木直樹さんは、桜丘中学校でのあるエピソードに注目する。尾木さんは、自らがMCを務めるNHK Eテレの番組『ウワサの保護者会』で、実際に桜丘中学校を訪れたことがある。
「桜丘中学校で、ある先生に伺った話がとても印象に残っています。その先生は、別の学校から同校に赴任してきたばかりでした。
ある日、休み時間に急に雨が降ってきたので、運動場で遊んでいる生徒に向かって、室内に入るよう放送で呼びかけたのだそうです。ところがすぐに、当時校長だった西郷さんから、“そんな放送はやめなさい”と注意されてしまった。その理由はこうでした。
“雨に濡れるのがイヤなら、生徒は自分で教室に入る。濡れても楽しいと思うなら、そのまま遊ばせてあげればいい”。
これは非常に重要な視点です。校内放送を流した先生は、なんの疑いも持たず、むしろ子どものためを思ってしたことでしょう。ですが、子ども自身がどうするかを判断する前に、先生が“教室に入るべき”という考えを、無意識に押しつけてしまった。西郷さんは、それが過干渉だと考え、先生を注意したのでした。
このケースに限らず、多くの教育現場では、知らず知らずのうちに、こうした過干渉が行われてしまっているのです」(尾木さん)
昨今話題のブラック校則も、言い換えれば過干渉の1つといえる。何を着るのか、何をしていいのか、あらゆることを、子ども自身が考えて判断する前に、校則で規制してしまう。それはつまり、子ども自身の「考える力」を奪ってしまっているのだ。
※女性セブン2020年4月16日号