新型コロナが家計を直撃する中、虎の子のキャッシュを「貯蓄」に回そうと考える人は多いだろう。しかし資産家や経済のプロたちは預金を「リスク」と考え、積極的に動かし始めている。その“避難先”は──。
現金の価値が下がる
収束の気配が見えない新型コロナ禍は、確実に家計を蝕んでいる。日本世論調査会が6~7月にかけて実施した全国郵送世論調査では、家計の状況が「苦しくなった」「やや苦しくなった」と回答した人は36%に及んだ。実に3人に1人がコロナ禍で生活苦を感じている。
家計に明るい見通しが持てない状況で、現金を「預金」に回す人が増えている。日本銀行が7月8日に発表した6月の貸出・預金動向(速報)によると、全国の銀行の預金平均残高は前年同月比8%増の786兆1263億円。伸び率・残高ともに過去最大となった。
前述の全国郵送世論調査でも、1人あたり一律10万円給付の「特別定額給付金」の使い道として多く挙がったのは、「生活必需品や家賃」(43%)に続き、「貯蓄や投資」が2位だった(18%)。給付金を差し迫った支出にあてねばならなかった人以外は、今後の景気や家計の悪化に備えて預金に回した人が多かったことが読み取れる。
今年4~6月期決算では名だたる企業の赤字が相次ぎ、今後の賃下げや雇用不安につながることも十分考えられる。「安全策としての預金」を選ぶ判断は、たしかに合理的に思える。
ところが取材によって見えてきたのは、経済・金融に精通した人ほど、自らの資金を「預金以外」の資産に振り分けているという現実だ。首都圏でマンションや駐車場経営を手広く展開する70代資産家の男性が言う。
「緊急事態宣言が発令された頃から、複数の銀行に預けていた預金を数百万円ずつ下ろしました。このまま銀行に預けておくよりも、別の運用に回したほうが得策だと考えたからです」