真壁昭夫 行動経済学で読み解く金融市場の今

今の相場は「狂騒の20年代」の再来か 忍び寄る株価暴落の周期

トランプ米大統領のコロナ感染に株式市場はどう反応したか(写真/Getty Images)

 人は常に合理的な行動をとるとは限らず、時に説明のつかない行動に出るもの。そんな“ありのままの人間”が動かす経済や金融の実態を読み解くのが「行動経済学」だ。今起きている旬なニュースを切り取り、その背景や人々の心理を、行動経済学の第一人者である法政大学大学院教授・真壁昭夫氏が解説するシリーズ「行動経済学で読み解く金融市場の今」。第4回は、トランプ米大統領が新型コロナウイルスに感染したことを受けての株式市場の反応と、株価上昇局面が続く米国株の現状について分析する。

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 10月2日、トランプ氏のコロナ感染が発表されると、直後の東京市場で株価が下落するなど、投資家の“リスクオフ”(価格変動リスクの高い資産を売却する動き)が進んだ。11月3日の米大統領選を前に、市場では「オクトーバー・ショック」の見方も強まり、世界的な株安も懸念された。

 しかし、同日その後の米国市場では、株価を左右する指標として注目される9月の米雇用統計で、非農業部門の雇用者数が予想を下回ったにもかかわらず、リスクオフの流れは強まらなかった。ハイテク株の多いNASDAQ(ナスダック)総合指数の下落率は相対的に大きかったが、それは週末を控え、高値で推移してきた米IT銘柄などが買い控えられたことも影響したようだ。週明けの5日には、東京市場の株価が上昇したことを見ても、トランプ氏の感染の影響を懸念するよりも、先行きの株価上昇を期待する投資家がかなり多かったことが見て取れる。

 本来であれば、世界の政治、経済、安全保障の頂点に君臨するような米国の最高意思決定権者がコロナに感染すれば、その影響を冷静に確認しようとする投資家が増え、株価が下落してもおかしくはない。ところが、短期的な動きを見る限り、そうはならなかった。ということは、依然として投資家の株価上昇への期待や思い込みはかなり強いと言えるだろう。

 これは、行動経済学の視点から言えば、米国の株式市場を中心に、人々が周囲の投資家につられて株を買う“ハーディング現象(群集心理)”が高まっていると見ることができる。ハーディング現象とは、一人で行動することには抵抗を感じるが、大勢と同じ行動をとることには安心感を抱き、周りの動きに同調すること。イメージとしては、羊の群れがY字路に差し掛かり、先頭の1頭がおもむろ右に曲がると、群れ全体がそれについていく状況に近い。自分自身では現状の株価の高さに不安を感じながらも、周囲の強気心理に巻き込まれるようにして資金を株に投じる人が多くなっているのである。

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