親の遺産が借金だらけの場合、ひとつの選択肢となるのが、財産を受け継ぐ権利を手放す「相続放棄」だ。だが、放棄をした後に高価な資産が見つかったら……? 『週刊ポストGOLD もめない相続』より、放棄を取り消して財産を受け継ぐことができるのかを相続実務士の曽根惠子氏に解説してもらった。
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10人いれば10通りの相続があり、手続き後に思わぬ事態が発生することもある。
「父が亡くなったあと、多額の借金が見つかり相続を放棄したのですが、そのあとに父の書斎から高額の当せん宝くじが見つかりました。それをあらかじめ知っていれば、相続放棄をしなかったのですが……」
と言うのは、埼玉県在住の60代男性Aさん。「相続放棄の取り消し」は可能なのだろうか。夢相続代表取締役で相続実務士の曽根惠子氏が指摘する。
「相続は一度放棄すると、基本的にその取り消しはできません。このケースの場合は、放棄をしていない他の相続人が相続することになります」
遺産に借金があると、相続人はその借金も引き継ぐことになる。しかし、相続を知ってから3か月以内に手続きをすれば放棄できる。それが「相続放棄」だ。手続きは、被相続人の最後の住所地の家庭裁判所で行ない、故人の戸籍謄本と住民票除票、申し立てる相続人の戸籍謄本、収入印紙、郵便切手などを用意し、「相続放棄申述書」とともに提出する。
この制度を利用することで、故人の負債によって妻や子ら相続人が借金苦に陥ってしまう事態が避けられる可能性があるのだが、その一方で、一度相続放棄をすると取り消しは難しい。相続放棄の取り消しは、脅迫された場合や未成年者が法定後見人の同意を得ずに放棄した場合などに限られる。自分の意思で放棄をした後に新たに財産が見つかったからといって取り消しはできない。