遺産相続のトラブルを回避するために「遺言」は重要な存在だ。しかし、条件によっては、遺言に従うだけでは、不十分なケースもあるという。たとえば夫が「全財産を妻に」と遺言を残していた場合でも、夫の母が“遺留分”を請求できるというのだ。実際の法律相談に回答する形で、弁護士の竹下正己氏が解説する。
【相談】
夫が病気で亡くなりましたが、遺産相続のことでもめそうです。義父はすでに他界していますが、義母と義姉がいます。私と夫の間に子供はなく、義母と義姉とは同居していません。夫の遺言書では、「私に全財産を相続させる」となっていますが、法律的には義母と義姉にも相続させないといけないのでしょうか。教えてください。(大阪府・55才・会社員)
【回答】
ご主人の相続人は、子供がいないので、配偶者であるあなたとお義母さんです。お義姉さんは相続人ではありません。
相続人が複数だと、本来は遺産分割協議が必要です。分け方の基準としては、配偶者と親が相続人の場合、法定相続分で、配偶者が3分の2、親が3分の1の割合となります。
しかし、ご主人は遺産全部をあなたに相続させる遺言を残しているので、遺産分割協議は不要で全部を取得できます。
不動産があれば所有名義をあなたに変更できますし、預貯金の引き出しもできます。
しかし、お義母さんには遺留分があります。遺留分とは、被相続人の配偶者・直系卑属・直系尊属(*)が持っている相続に関する固有の権利で、被相続人が遺言や生前贈与によっても奪えない遺産の範囲です。
【*直系卑属=子・孫など自分より後の世代で、直通する系統の親族のこと。直系尊属=父母・祖父母など自分より前の世代で、直通する系統の親族のこと】
遺留分の権利は、直系尊属だけが相続人の場合は法定相続分の3分の1、それ以外の場合には2分の1です。今回の場合、直系尊属であるお義母さんの法定相続分が3分の1で、配偶者とともに相続人ですから、遺留分は、その2分の1、すなわち全体の6分の1です。