真壁昭夫 行動経済学で読み解く金融市場の今

米長期金利に翻弄される日本株 金利が上がるとなぜ株価が下がるのか

日経平均株価は2万9000円を割って以降、3万円台を回復していない(写真/3月5日、時事通信フォト)

日経平均株価は2万9000円を割って以降、3万円台を回復していない(写真/3月5日、時事通信フォト)

 人は常に合理的な行動をとるとは限らず、時に説明のつかない行動に出るもの。そんな“ありのままの人間”が動かす経済や金融の実態を読み解くのが「行動経済学」だ。今起きている旬なニュースを切り取り、その背景や人々の心理を、行動経済学の第一人者である法政大学大学院教授・真壁昭夫氏が解説するシリーズ「行動経済学で読み解く金融市場の今」。第14回は、米国の長期金利の動向が日本株に及ぼす影響について。

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 日経平均株価が約30年ぶりに3万円の大台を超え、このまま高値で推移するかと思いきや、2月末から乱高下が続いている。2月の最終営業日の26日には1200円以上の大幅下落で2万9000円を割り込み、翌営業日の3月1日には697円高と大幅反発して2万9663円の終値を付けるも、それ以降は再び2万9000円を割る場面が度々見られる。

 大きな要因となっているのが、米国の長期金利(10年もの国債利回り)の動向である。今年1月末までは1%前後で推移していた長期金利が、ここ1か月で0.5%以上も急上昇し、2月26日(日本時間、以下同)には一時1.61%まで跳ね上がったこともあり、株価は急落。3月1日には1.4%台前半まで低下したことで株価は上昇に転じたが、その後、長期金利は再び上昇していることから、株価は下落基調となっている。日経平均が2万9000円を下回るのは2月5日以来であり、株価は約1か月分巻き戻された格好だ。

 金利が上がるとなぜ株価は下がるのか。株は値上がりが期待できる反面、値下がりリスクもある。投資金額(株価)に対してどれくらいの利益が期待できるかという「益利回り(1株当たりの予想純利益を株価で割ったもの)」を見ると、これまで勢いのあった米国株は総じて「株価収益率(PER、会社の利益などに対して今の株価が割安かどうかを見る指標)」が高く、株価は割高となっているため益利回りも低くなる。しかも、益利回りは期待値だが、金利は確定値であるため間違いなく受け取れる。そうなると、「益利回りが低い未確定のものよりも、相対的なリターンは低くても確実に受け取れた方が安全。金利が上がるなら株よりも債券を買いたい」という投資家が増える構図だ。

 米国債に資金がシフトすることで株は売り込まれ、特に世界経済の動向に左右され“世界の景気敏感株”といわれる日本株は、米長期金利が上昇すればすぐ売られる「ヘッジファンドのおもちゃ」と化し、金利に翻弄される構図となっているのである。

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