「人生の最後」がなかなか訪れないことが、時に悲劇につながることもある。高齢で老い先短いのだから……そう思って面倒を見始めた結果、“予想外の事態”に直面するケースが後を絶たない。
多くの人が直面するのが、介護費用の問題だ。愛知県に住む60歳男性は、15年前に父親が他界。その後に認知症を発症した母親を住宅型有料老人ホームに入居させた。
「うちは商売をしているので、自宅で面倒を見るのは無理だと判断したんです。当時、母は82歳。老人ホームの職員の話では『環境が変わることで、早くて1~2年、平均で4~5年で亡くなる人が多い』とのことでした。食費や諸経費を含めると月15万~16万円ほどかかる。母の年金は8万円程度なので、月に7万~8万円の持ち出しになりますが、『5年くらいならウチが負担すればいい』と考えていました。
ところがホームに入ってからもう10年を超えました。兄弟に費用の分担を頼んでみたものの『自分が勝手に老人ホームに入れたくせに』と取り合ってくれない。母が100歳まで長生きしたら、自分たちの老後資金はどうなるのか……いまは不安しかありません」
『老後はひとり暮らしが幸せ』の著者で、高齢者の生活満足度調査を行なってきた医師の辻川覚志氏(つじかわ耳鼻咽喉科院長)が語る。
「親世代が言う“オレはあと1~2年で死ぬから”という言葉を真に受けてはいけない。今の医療水準では、10~20年は覚悟が必要です。介護施設の入居費用は、認知症だと月25万円ほどかかる場合もあり、それだけの金額を年金で払える人はほとんどいない。結局家族の持ち出しになってしまいます。ゴールが見える子育てと違い、“何年先まで続くかわからない”のが介護。いつか経済的な限界が訪れるリスクがあるのです」