2019年6月に突如、話題となったのが「老後資金2000万円不足」問題だ。金融庁の公開した報告書「高齢社会における資産形成・管理」(金融審議会 市場ワーキング・グループ)の内容が物議を醸したのである。同報告書では、定年を迎えた夫婦が公的年金だけで暮らしていこうとすると、20年後の85歳までに1300万円、30年後の95歳までには2000万円の老後資産不足が生じると指摘するものだった。
正式発表の10日前に公表された「報告書(案)」の段階では、〈年金の給付水準が今までと同等のものであると期待することは難しい〉〈公的年金だけでは満足な生活水準に届かない可能性がある〉などと記されていたこともあり、“公的年金で100年安心と言っていたのはなんだったんだ!”と批判が殺到。ワイドショーでも連日取り上げられるなど大炎上した。
参院選直前というタイミングもあって、当時の安倍政権は大混乱に陥る。金融担当相を兼務していた麻生太郎・財務相は、報告書の「受け取り拒否」という前代未聞の対応に走り、この問題自体を“なかったこと”にしようと火消しに躍起となった。
結果、報告書の指摘が一体なんだったのか、老後資産についてどう考えればいいのか、不安だけが残る結果となった。
「うちはとてもじゃないが2000万円の蓄えなんてない。いまだに妻と一緒に、“一体どうしたらいいんだ”“何歳まで働けばいいんだ”と困惑するばかりです」(都内在住の60代男性)
60代と80代では生活費が大きく異なる
『週刊ポストGOLD 2021改訂版 あなたの年金』に基づき、その報告書の内容を改めて整理しよう。報告書は総務省の「家計調査」(2017年)に基づき、高齢夫婦無職世帯(夫65歳以上、妻60歳以上)の家計は平均収入が月額約20.9万円に対して、支出は月額約26.3万円で、毎月約5.4万円の赤字になっていると指摘。そのため夫が95歳、妻が90歳まで長生きすると、毎月の赤字が30年積み重なって約2000万円になるという計算をしているのだ。
この数字だけを見ると、「60代になったらとにかく節約しなくては……」と思いがちだが、必ずしもそうではない。