モノの売買には何かとトラブルがつきものだ。たとえば車を売ったにもかかわらず、買い手が代金を支払う前に転売してしまったら、どうすればよいのだろうか。弁護士の竹下正己氏が、実際の相談に回答する形で解説する
【相談】
私の弟が自分の車を知人に売りました。知人は「1か月以内に名義変更をして、お金を全額払う」と約束したのに、一向に手続きをせず、代金も払ってくれません。しかも、その間に駐車違反をしたらしく、弟のところに違反金の納付書が届きました。弟は怒って、知人に「すぐに名義変更をして全額払うか、車を返すかどちらかにしろ」と詰め寄ったところ、車はインターネットでほかの人に売ってしまったことが判明。こうした行為は犯罪にはならないのでしょうか。車の代金は、誰からもらったらよいのでしょうか。(栃木県・42才・女性)
【回答】
弟さんの知人が最初から踏み倒すつもりであったなら、お金を払うと信じ込ませて物を手に入れたのですから詐欺になります。詐欺は10年以下の懲役で処罰される重罪です。
しかし、その人物が普段から同種の詐欺を繰り返しているなどの客観的事実がない限り、詐欺の意思を否定されると、最初からだまそうという意思であったことを証明するのは至難の業です。
たとえば、Aさんから預かった物をBが売ってしまう場合、「自己の占有する他人の物」を横領したことになり、犯罪です。しかし、Bが買った物は代金未払いの段階でも所有権はBに移ると解され、「他人の物」ではないので横領罪は成立しません。
そういったことから、代金後払いで弟さんから買った物を、代金を支払わないうちに知人が転売したことを罪に問うのは難しいと思います。転売目的で物を買うことは特に珍しいことではないので、転売を犯罪として問うことはできないのです。