自分の身に何かがあった時に備えて、用意しておく「エンディングノート」だが、その存在が、余計に遺族を混乱させることがある。
「父がエンディングノートを書いているのは知っていました。もしかすると葬儀の希望なども記されているかと思って、亡くなってからすぐに読んだのですが、『(遺灰を専用のカプセルで打ち上げる)宇宙葬がいい』とか、『高校時代の同級生全員に見送られたい』とか、中身は無理なことばかり。母は“なんとかならない?”と言っていたが、私たち兄弟で“見なかったことにしよう”という話になりました」(60代男性)
夢日記のような内容は困りものだし、現実味のある話でも“遺言書のつもり”で書かれていると、もめごとの原因になるケースがある。
「母のエンディングノートに、介護でお世話になった知人にも遺産を分けたいと書かれていました。母の希望だし、私は少しくらいならいいかなと思ったのですが、『エンディングノートなんて遺言書にならない! 日付もハンコもないじゃないか』と弟たちが強硬に反対して、それがきっかけで相続の話し合いがギスギスした雰囲気に。
結局、その知人には遺産を分けないことになりましたが、弟たちとのわだかまりは今もなんとなく残っています」(50代女性)
「後になってエンディングノートが見つかり、つらい思いをした」と話すのは、同居していた父を亡くした都内在住の68歳の男性である。
「遺品を整理している時、タンスの引き出しの奥から出てきたんです。そこには葬儀に呼んでほしい旧友の名前や、見送りの時に流してほしい曲名など、細かいことまで書かれていた。父は最後は認知症が進んでいたので、以前書いたノートを“大事にしまっておかないと”と思いそのままになっていたのでしょう。
後でそのことを姉や弟に言うと、“一緒に住んでいたのに、なぜ気づかなかったんだ”と責められ、伝え聞いた親戚からも“希望通りの葬儀ができなくて可哀相だった”と嫌味を言われました」