世界で拡大する一方の経済格差を解決するための方策のひとつとして、「すべての国民に生活に必要な額を毎月給付する」ユニバーサル・ベーシックインカム(以下、UBI)の導入を提唱する人たちも増えている。自助・共助・公助のうち公助を拡充する考え方だが、はたしてUBIを導入することで、経済格差は解決されるのだろうか。話題の新刊『無理ゲー社会』で最新の経済理論をもとに「よりよい世界」を作る方法について検証している作家・橘玲氏が、UBIがはらむ大きな問題点について指摘する。
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UBIは収入や資産にかかわらず全員一律に毎月定額を支給する最低所得保障制度で、日本ではもともとリベラルのあいだで広まったが、橋下徹時代の「維新の会」が政策に掲げたことで注目を集め、近年では竹中平蔵のような“ネオリベ(新自由主義者)”や、オリックス元会長・宮内義彦のような経済人も積極的に提唱している。
UBIにはさまざまなメリットがある(だからこそ多くの賛同者がいる)が、その一方で、「財源をどうするのか」「労働意欲がなくなるのではないか」などの強い批判がある。だが不思議なことに、この制度の致命的な欠陥についてはほとんど議論の俎上にのぼることがない。それが、「誰に支給するのか」だ。
移民にもUBIを支給するのか
ジャーナリストのアニー・ローリーは、進歩的左翼の立場から、「賃金払いの条件は、あなたが、ただそこで生きていること」というUBIに希望を見出し、その実現可能性を探るために、政治家、経済学者、シリコンバレーの投資家、ファストフードで働くシングルマザーなどにインタビューし、欧米だけでなく実験的にUBIを導入したアフリカやインドにまで足を延ばして取材した(*)。
【*参考:アニー・ローリー『みんなにお金を配ったら ベーシックインカムは世界でどう議論されているか?』みすず書房】
この旅でローリーは、UBIにはよりよい未来をつくる大きな可能性がある一方、さまざまな課題があることにも気づかされた。それでも、経済格差や人種差別、女性(シングルマザー)の貧困など、現代社会が抱える多くの難問をUBIが解決できるという楽観論は一貫している。