かつて日本の製造業などは“ジャパン・アズ・ナンバーワン”と称された。しかし近年では、パソコン事業を売却したソニーや家電などから撤退したNECなど、主力事業を「捨てる」経営でさらなる成長を遂げている例もある。
こうした捨てる経営はハレーションを起こさないために粛々と進められるケースが多いが、そんななか本田技研は“脱エンジン宣言”をぶち上げた。今年4月に開催された新社長就任会見で、三部敏宏社長は「2040年までに、販売する新車のすべてを電気自動車(EV)か燃料電池車(FCV)にする」と述べ、社の基幹だったエンジン自動車との決別を宣言したのだ。
背景には、気候変動対策としての世界的な電動化の流れがある。欧州は2035年までにハイブリッド車やプラグイン・ハイブリッド車を含むエンジン搭載車の販売を禁止する方針を掲げ、本田技研の宣言はそれに対応したものと言える。
「ホンダの決断は受け身ではなく、他社に先駆けて脱エンジン・EV化を進めるということで、他社との差別化を図るという効果が期待できます。好調にもかかわらずF-1からの撤退を表明したのも脱エンジンを印象づけるため。変わるべき未来にいち早く手を打つという姿勢を見せたということです」(小宮コンサルタンツ代表の小宮一慶氏)
生き残るためには、得意としていた技術を捨ててまででも、新たな領域に挑戦していかなければならない。
「赤字や不要な事業はもちろん、利益率の低い事業や将来性のない事業も“捨てる”対象となります。たとえそれが、その企業の創業からの事業であっても、主力事業であってもです。その“捨てる”経営判断を、いち早く積極的に行なっていくことが、今後の日本企業が取るべき方策となります」(同前)
日本経済復活への険しい道のりは続く。
※週刊ポスト2021年9月10日号