イノベーションを引き起こすシステムにおいて、米国が世界で最も進んでいるのは明らかだ。巨大IT企業群・GAFAM(Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft)に代表されるように、世界のイノベーションを牽引する企業の多くは米国で生まれている。
中国でも、テンセント、アリババ、バイドゥといったこの10~20年で急成長した世界的企業があるとはいえ、それぞれの会社の主力事業であるゲーム、EC取引、インターネット検索エンジンなどで、世界のイノベーションを牽引したとはいえない。中国の市場を新たに開拓したに過ぎない。
しかも、こうした民営企業は欧米投資銀行の助けを借りて、米国市場や、欧米投資家が主体の香港市場で資金調達することで急成長することができたという歴史がある。
ただ、米中関係が冷戦と呼ばれるような状態まで悪化した今、中国企業としても、もう米国には頼れない。ならば、どうすればよいのか。
その答えの一つとなるのが、上海、深センに続く本土3つ目となる北京証券取引所の新設だろう。中国証券監督管理委員会は9月3日、記者会見を開き、北京証券取引所を設立すると発表した(設立時期は明らかにされていない)。
当局の定める規定はあるものの、不特定の投資家が、店頭での相対取引ではなく公開市場取引で株式を売買できるという点で、北京証券取引所は上海、深センに続く、本土第3の証券取引所と言える。
中国の各取引所が設立された経緯
上海、深セン証券取引所での市場取引はいずれも1990年に地方クラスのテストとして始められた。その後、全国に対象企業が拡大された両取引所であるが、2000年代までは国有企業改革としての役割が重視されていた。
しかし、国有企業改革を一通り終えた2009年10月には、民営ハイテク企業に対しても資金調達の場を与えることを目的として、従来のメインボードとは別のセカンドボード(創業板)が深セン市場内に設置された。上場の条件が大きく緩和され、民営企業にも資本市場を通じての資金調達の道がこれまで以上に大きく開かれた。
また2019年6月、習近平国家主席の国際会議での発言を受けて、科学技術イノベーション型の企業に対する資金調達の場として、上海証券取引所内に科創板が設置された。その後、創業板でも解禁されることになるのだが、認可制ではなく、登録制で上場を認める制度が中国の証券市場で初めてこの科創板で導入された。