遺産を巡る相続争いは、遺言書がないことが原因になるケースが圧倒的に多いという。だが、家族関係が複雑な家庭の場合、たとえ遺言書を残していても、精神的に追い詰められるほどこじれることもある。そのリアルケースを見てみよう。ある50代女性の体験談を紹介する。
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「私は知っているのよ。父は母との離婚直後に土地を処分して3億円を手に入れていたことを。だから遺産が1億円しかないなんて、少なすぎる。あんたが隠しているんでしょ!」
夫が82才で亡くなり、四十九日が明けてそうそう、私(51才)と同じ年である、夫の一人娘・H美がわが家を訪ね、こんなことを言うんです。そう、私は後妻。夫には生前、「いま暮らしている時価4000万円の家と1億円相当の金融資産をすべて妻に相続させる」という旨の遺言書を残してもらっていました。
ところが、それに怒ったのが、H美。「遺留分」を主張したうえで、「もっと遺産があるはずだ」と訴えてきたのです。
遺留分とは、法定相続人に法律上最低限保障されている遺産の割合のこと。故人が特定の相続人に有利な内容の遺言書を残していた場合、請求されることがあるそう。つまりH美は、遺留分を主張し、遺産1億4000万円の4分の1である3500万円をよこせと言ってきたわけ。
遺留分は法律上どうしようもないので私も覚悟していたのですが、困ったのは、「もっと財産があるはずだ」と主張されること。ないと言っても、「嘘をついたら大変なことになるわよ」と脅され、精神的にダウン。
でも本当にないんです。実は夫には愛人がいて、生前にかなりの現金を彼女に渡していたんです。私もそれを知っていたから、これ以上取られてたまるかと、お願いして遺言書を書いてもらったくらいですから。
まあ、そんなことを言っても、話の通じないH美には、焼け石に水。訴えたいなら訴えればいい。どうせないものはないんだから。そう覚悟はしつつ、とりあえず先日、「この人にも聞いてみては?」と、夫と愛人のツーショット写真を送っておきました。
お金はあったらあったでロクでもない人間を引き寄せるので面倒ですよね。