徳島県警を退職後は犯罪コメンテーターとして活躍する「リーゼント刑事」こと秋山博康氏の連載「刑事バカ一代」。秋山氏が現役時代、警視庁・捜査第一課に出向した時のことを振り返る。
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おはようさん、リーゼント刑事こと秋山博康です。
2000年に徳島県警から警視庁に出向したワシは、人気女子アナストーカー事件や大手食品メーカー恐喝事件で捜査に貢献し、徐々に刑事として信頼されていった。
特に、捜査第一課のA管理官はワシを「秋ちゃん」と呼び可愛がってくれた。
管理官は重大事件が発生した時、所轄署に設置された特別捜査本部で指揮を執る重要なポスト。それゆえ現場経験を積んだ叩き上げが多い。その管理官に認められたのだから士気も上がる。異動初日に叱られたダブルのスーツに花柄ネクタイも黙認されるようになり、ワシは警視庁でも少し知られた存在になっていた。
当時は凶悪犯罪の全盛期で、警視庁管内には15前後の特別捜査本部が立ち上げられていた。多忙の捜査員は自宅に帰れず、所轄署の道場で寝泊まりすることがしょっちゅう。いかつい刑事たちが道場の畳の上でギュウギュウ詰めになり大イビキをかく中、ワシは壁に干してある着古しの道着を掛け布団代わりにして眠っていたんや。
外国人が絡む事件も多く、イラン人の麻薬密売グループが仲間を身代金目的で誘拐した事件では、捜査と取り調べを担当した。手こずるかと思いきや、容疑者は意外にも素直だった。取り調べの初っ端、外国人に舐められんよう「アイアム・ジャパニーズ・ジュードー・チャンピオン!」と強面でカマしておいたからに違いない(笑)。
この頃、英国人女性ルーシー・ブラックマンさんの失踪事件(後に遺体で発見)が発生し、日本中が大騒ぎになった。
「秋ちゃん、頼むわ」──A管理官がワシに命じたのは、失踪に関与したとみられる容疑者が大量購入した携帯電話の情報収集。連日の徹夜作業に途方に暮れつつ、膨大な記録から容疑者とルーシーさんを繋ぐ通話記録を突き止めた。この時の捜査報告書は、後の裁判で有力な証拠になったと聞いている。