徳島県警を退職後は犯罪コメンテーターとして活躍する「リーゼント刑事」こと秋山博康氏の連載「刑事バカ一代」。今回は捜査方法の進歩について綴る。
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おはようさん、リーゼント刑事こと秋山博康です。
最近は通り魔など物騒な事件が多発しているが、実は殺人・強盗などの凶悪犯認知件数は20年前の半分以下に激減している。一方、都内で起きた殺人・強盗などの検挙率は03年の55.1%が19年に92.4%まで大幅に上昇した。
要因のひとつがハイテク捜査の進歩や。2021年夏、東京メトロで男が知人男性に硫酸をかけて逃走した事件は、現場から犯人の居場所まで防犯カメラをつなぎ合わせる「リレー捜査」が奏功して、発生から4日でスピード解決した。
時代も変わったもんや。1984年に「グリコ・森永事件」が起きた時は徳島にも模倣犯が現われ、ある町の郵便ポストに何度も脅迫状を投函した。ワシらは当時の捜査一課長の厳命で、ポストが見える場所に置いた大きな段ボール箱の中に身を潜め、カップ麺とポットを持参して24時間交代で張り込んだ。
だがひとりで丸一日張り込むのは無理があり、うたた寝しとる間にまた犯人に投函された。怒った幹部が捜査員らを怒鳴りつけると、ワシの先輩刑事がおずおずと手を挙げ、「あの~、防犯カメラを置いたらどうですか」と提案した。すると幹部は「刑事が機械に頼るのか!」と激昂し、先輩刑事は次の人事異動で僻地の駐在所に飛ばされた。そんな時代だったんや。
それから30年後、徳島県内で2人組の女性がSNSで知り合った男を言葉巧みにホテルに誘い、スキを見て財布を奪う窃盗事件が20件ほど連続して起きた。鼻の下を伸ばした被害者に似顔絵を書かせたら犯人の特徴がすべて同じで、ワシらは「コイツらや!」と色めき立った。すぐにベテランの刑事コンビが似顔絵を頭にインプットして、靴の底がすり減るまで街中を探し回ったが、1週間経っても犯人を見つけられなかった。