「急に入り用になった時すぐ引き出せるように」と、100万円の普通預金を別口座に置いていたAさん。孫が生まれたお祝いをと5年ぶりに銀行で記帳すると、知らないうちに残高が約96万円になっていた。まさか預金が減るなんて――。
「預金にマイナス金利が課される」時代が目前に迫っている。
日本より一足早く、欧州諸国ではすでに広く行なわれている。ドイツでは最大手のドイツ銀行とコメルツ銀行が2020年に新規顧客が一定以上の預金を預ける場合は年0.5%のマイナス金利を取り始めた。他行にも急速に拡大、今年1月初めの時点で同国内の半数近い555行がマイナス金利を導入している。
マイナス金利を取られるのは預金額が2万5000ユーロ(約320万円)を超える部分といった基準を設けるケースがほとんどだが、基準額はどんどん引き下げられており、最近では基準を設けずに預金1ユーロからマイナス金利を課す銀行が38行にのぼっている。
同様の動きは他国にも広がり、北欧の大手ノルデア銀行はデンマークでの預金にマイナス0.75%の金利を取り、かわりに金利0%の住宅ローンを提供している。
「銀行にお金を預けたら金利を払わされるが、お金を借りたら金利はゼロ」という、従来の常識とは全く逆の時代が訪れているのだ。
原因は各国中央銀行のマイナス金利政策だ。ユーロ圏19か国の欧州中央銀行(ECB)はデフレ対策として金融緩和を進めたが、ゼロ金利でも効果が薄かったことから2014年に初めて政策金利(預金ファシリティ金利)にマイナス金利を導入。金融機関がお金をECBに預けた場合、金利を払わせることにした。シンクタンク・東短リサーチ社長の加藤出氏が語る。
「欧州の銀行はECBがマイナス金利政策を始めた当初は預金者に転嫁することには消極的でした。しかし、金融緩和が続いて資金の運用先に困ったところに、さらにコロナ禍がやってきた。各国政府はコロナ不況対策として大規模に国民に支援金を配りましたが、そのお金が銀行に預けられ、銀行は預金が増えすぎていよいよ運用先がなくなったわけです。運用先がなければECBに銀行が預ける資金が増えてしまい、マイナス金利をたくさん取られる。その結果、銀行は背に腹は代えられずに預金者からマイナス金利を取ることにした」