絹のような美しい薄皮に包まれた肉ダネ、口にすればあふれ出すジューシーな肉汁──。弁当のおかずから酒のつまみまで、老若男女に愛されてきた中華の定番・シュウマイ(焼売)。ただ同じ立ち位置にいるギョーザ(餃子)と比較すると、どうしても影の薄い印象が否めなかった。そんななか、町の大衆中華を中心に「シュウマイ・リバイバル」が起きているという。
日本のシュウマイとギョーザの歴史は、明治時代にまでさかのぼる。『町中華とはなんだ 昭和の味を食べに行こう』などの著書があるライターの下関マグロ氏が解説する。
「もともと日本に入ってきた順番は、ギョーザよりシュウマイの方が先でした。明治以降、長崎や横浜に誕生した中華街の“突き出し”のひとつとして入ってきたと言われています。大衆的な中華食堂である“町中華”の元祖とも言える老舗『来々軒』の1910年代当時のメニュー表には『シューマイ』という文字が記されており、中華そばなどとともに一般的に愛されるメニューだったんですね。
戦後、それを破竹の勢いで追い抜いたのがギョーザです。満州出兵から帰ってきた日本人が持ち帰ったとされていますが、これが戦後の屋台文化で『焼きギョーザ』として大ヒット。以降、町中華はもちろん家庭の食卓でも広く食べられる国民食になりました。主に『茹で』『蒸し』という工程で調理されるシュウマイと比べて、『焼き』で仕上げるギョーザはニンニクの香りもあいまって味のインパクトが強く、ご飯のおかずになりやすかったことも勝因のひとつでしょう」
ギョーザの後塵を拝し続けてきたシュウマイだったが、「実は近年、その勢力図に変化が生まれている」と下関氏は続ける。
「シュウマイ・リバイバルとも言える動きが起きているんです。冷凍シュウマイのコロナ禍での市場拡大も大きな要因のひとつですが、特筆すべきは『町中華のシュウマイ』の復活です。近年の町中華ブームに乗じて、戦前からシュウマイを提供していたお店に注目が高まり、その美味しさが見直されている。ギョーザと比べると肉々しさやジューシーさでシュウマイに軍配が上がり、玉ねぎの甘みが加わった逸品を瓶ビールで流しこむとたまりませんね。
最近はテイクアウトを始めた店も増えていますが、ギョーザは『焼き』の工程が必要なのでどうしてもフライパンを使わないと美味しくならないんですよ。一方でシュウマイは『蒸し』なので、電子レンジで調理しても美味しくいただける。洗い物も楽で持ち帰りと相性がいいんです」