子供が独立した後、高齢夫婦で住むには広くなりすぎた戸建てを売却し、ダウンサイジングしたマンションに住み替えようと考えている人もいるだろう。マンションを購入できるほどのまとまった資金がない場合、賃貸住宅への入居が選択肢となるが、賃貸への引っ越しは、年齢を重ねるほどハードルが高くなるのが実情だ。
公益社団法人「全宅連(全国宅地建物取引業協会連合会)」の調査(2020年)によると、65歳以上の高齢者世帯に対し、民間賃貸住宅の斡旋を「積極的に行なっている」と答えた不動産業者はわずか7.6%だった。反対に、「行なっていない」「消極的である」と回答した業者は4割弱に上った。住宅ジャーナリスト・山下和之氏はこう言う。
「高齢者の受け入れに消極的な理由は様々あるようですが、特に独居老人の増加によって部屋での孤独死が増えたことが大きな理由と考えられます。国交省は、自然死の場合には『事故物件にはあたらない』との見解を示していますが、室内の清掃や復旧工事など事後の負担が大きいうえに、その後の賃借人の募集において不利な影響が出るのは免れません」
全宅連の調査では、高齢者に賃貸住宅を斡旋しない理由として「意思能力の喪失」や「家賃の滞納」「近隣や他の入居者とのトラブル」などのリスクを挙げる業者が多かった。都内の不動産業者の話。
「諸状況に応じた判断になりますが、病死や認知症の発症など健康面はもちろん、家賃滞納のリスクについても慎重にならざるを得ない。特に、収入が国民年金のみの高齢者は、ある程度の蓄えがあってもオーナーの判断で門前払いとなることがあります。
その他に恐れるのは、火災のリスクです。火の不始末による事故は高齢者に限りませんが、総合して考えると高齢者を敬遠するのは致し方ない面がある。また、室内の清掃や整理整頓が行き届かず、ベランダに不用品を積み上げてしまうなど“ゴミ屋敷”化するケースが高齢者に多いのも、斡旋を躊躇(ためら)う理由のひとつです」