相続は「親子」の問題ととらえがちだが、実は「親戚」とのトラブルのほうが厄介なケースもあるという。
親戚との相続トラブルはいつ、どのように発生するのか。「家族のためのADR推進協会」代表理事の小泉道子氏が指摘する。
「家族の誰かの施設入居や病気進行など、相続を意識するタイミングでトラブルが増加します。その際に同居して面倒を見ている子や孫と、離れて暮らす他の親戚が揉めるケースが少なくない。それまで一切関知しなかったのに、相続を意識して『財産管理はどうなっているか』『通帳を見せろ』と親戚が言い出すこともある。逆に、面倒を見ている子が親を取り込み、他の親戚に会わせないこともあります」
具体的にどんなトラブルが生じるのか。そのリアルケースを見てみよう。
「遺産目当ての口出し」(61歳・Aさん)
10年前に父が他界後、82歳の母を引き取ったAさん。遠方に住む2人の兄とは疎遠で、法事で顔を合わせてもほとんど言葉を交わさなかった。
最近、母の持病が悪化して介護医療院への入居を検討することに。だがAさんが「母さんの預貯金から入居費を出そうと思う」と念のため報告すると、兄は「施設はカネがかかる」と猛反対した。
「それまで無関心だったのに、あまりの変わりように驚きました。さらに『預貯金の管理が不透明だ』『お前が使い込んでいるんじゃないか』と毒づかれ、『俺たちがお袋の面倒をみる』と言われた。兄2人は同じ地域に住み、長男が母を引き取り協力して介護するというが、これまで母の顔もロクに見に来なかったのに、介護をできるわけがない。ずっと母に寄り添ってきた私の娘は、『そんなにお祖母ちゃんの遺産が欲しいの! 伯父さんたちは勝手だ』と怒りに震えています」(Aさん)
相続手続カウンセラー協会代表の米田貴虎氏が指摘する。
「相続のタイミングで、突然、疎遠だった親戚が登場することは珍しくなく、父の死後に叔父が現われ『死んだ兄に貸した500万円を返してくれ』と迫った実例もある。借用書もなく困惑していると、『500万円は大変だろうから100万円で手を打つ』と言ってきたそうで、後に完全な嘘だったとわかりました」