投資の入門書などでは、資金的に余裕がない人や投資初心者は「少額から始めよう」などと書かれている。たしかにこれまで投資をやったことがないのだから、損失を出すのが怖いだろうし、そもそも元手があまりなければ、少額から始めたいと思うのももっともだろう。だが、はたしてそれは正解なのか。
「投資は少額からでも始めることはできますが、私はオススメしません。破滅への扉を開けるようなものだからです」と警鐘を鳴らすのは、経済評論家の佐藤治彦氏だ。
「例えば10万円を投資して13万円になったら元手が3割も増えるわけで、まずまずの成功といえます。しかし、利益額は3万円。この程度の利益なら、日常生活で賢く生活していくほうがはるかにいい。少額の株式投資で得られる利益と同じくらいの金額は、日常生活の工夫で簡単に手に入れることができます。そんな小さい金額のために、貴重な時間を使わないでほしいのです」(佐藤氏・以下同)
儲かったらいいものの、損をしたとき、投資初心者や少額で投資した人は「これくらいの損失なら勉強のための出費と思える」と考えがちだ。しかし、佐藤氏は「この考え方に危険が潜んでいる」と指摘する。
「損する経験を山ほど積んだら、儲けられるようになるとでもいうのでしょうか? 少額で投資を始める人の多くが、わりと気軽に取引を始めてしまいます。『5万円で株式を始めてみよう。2割下がって1万円の損が出たらやめればいいや。とりあえず、この株を買ってみようかな』などという感じです。たいした勉強も準備もなく、こんな気軽な気分で始めてしまいます。そして、大きく損するのは嫌だから少額で始めて、損しても『勉強のつもりでやっただけ』と言い訳をするのです。これではいけません」
さらに、「困ったことに、時にはそれで利益を生むことがあるのが投資」だという。
「たいした勉強も準備もなく投資を始めて、1万~2万円儲かることもあります。でもそれは、単に運が良かっただけ。あぶく銭でしかありません。しかしそれに気づかず、『株式投資って案外と簡単なんだな』『こんなんで儲かるんだ』と思ってしまいます。しかも、気軽に始めるということは、多くの場合、たいして調べず、たいして学ばず、たいして考えず始めるものなのです」
何度かビギナーズラックで儲けた人は、「最初に10万円ではなく、100万円でやっていれば10万~20万円儲かったのに」と考えてしまいがち。こうして運だけで儲けていると、いつかは痛い目にあうのが投資の世界だというのだ。
「少額で運良く儲けた体験があったため、金額をぐっと増やして100万円を投資したときに、2割の損をする。すると、それまでの儲けが1回で吹き飛んでしまうこともあります。また、それを取り返そうとして、ますます損してしまう人も多くいます。こういった人は、取引から何も学んでいません。失敗(損失)を重ねているだけです」