人は常に合理的な行動をとるとは限らず、時に説明のつかない行動に出るもの。そんな“ありのままの人間”が動かす経済や金融の実態を読み解くのが「行動経済学」だ。今起きている旬なニュースを切り取り、その背景や人々の心理を、行動経済学の第一人者である多摩大学特別招聘教授・真壁昭夫氏が解説するシリーズ「行動経済学で読み解く金融市場の今」。第38回は、方向感の定まらない金融市場について分析する。
* * *
日米の株価ともに方向感の見えない展開が続いている。7月10日の参院選で自民党が圧勝し、翌11日の日経平均株価は一時500円超の上昇を見せたが、その後は2万6000円台で推移。ほんの数か月前まで史上最高値更新に沸いていた米国のニューヨークダウも3万ドル台前半で膠着状態にある。
「コロナ禍」に「ウクライナ危機」で世界的なインフレが加速しているのはもちろんだが、最大の要因は、日米の中央銀行のスタンスにあるといえるだろう。
FRB(米連邦準備制度理事会)は急激な物価上昇を抑えるべく、3月以降、利上げを断行。6月のFOMC(米連邦公開市場委員会)では政策金利を0.75%引き上げるなど、徹底的なインフレ退治に乗り出したことを示した。
それでもインフレは止まらず、6月の米国の消費者物価指数(CPI)は前年同月比9.1%に上昇。市場では7月26~27日に開かれるFOMCで前回の0.75%を上回る1%の利上げに踏み切るのではないかとの見方まで広がっている。
ただ、インフレ退治のためとはいえ、金融引き締めを強化しすぎれば、肝心の景気が減速するばかりか、「後退」の懸念も出てくる。FRBはインフレ退治と景気後退を両にらみしながら、非常に難しい舵取りを迫られている。
これこそまさに行動経済学の「アンカーリング」といえるだろう。これは、船が海流に流されないようにアンカー(錨)をおろすように、最初にインプットされた情報が海底におろされたアンカーのように心の働きをコントロールする状態を指す。インフレ抑制というアンカーが強力に働いているため、FRBにも景気の減速、あるいは後退という懸念はあるものの、どう動いていいのか確信を持てないまま決断できない状況が続いているのではないか。