政府は少子高齢化対策として、児童手当やコロナ禍での子育て世帯を支援する臨時特別給付金の給付を実施している。だが、その恩恵を実感できない人たちがいる。課税所得が一定水準を超える場合、所得制限で給付の対象から外れてしまうのだ。富裕層に多くの人脈を持つライターの高木希美氏が、給付対象から外れてしまった人たちに取材すると、不満の声が続々と聞こえてきた。
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2022年10月から、児童手当の所得制限が変わることになりました。扶養人数が3人(妻と子供2人)の場合、課税所得金額が736万円以上の世帯になると、児童手当がもらえなくなります。これは年収ベースで約1200万円になります。
これまで、高所得の世帯でも子供1人につき月額5000円の児童手当がもらえていました。子供2人だと月1万円。4か月に1度もらえるので、支給日には4万円が振り込まれます。年収1200万円以上ある世帯にとってもこの4万円はありがたい存在だったようで、10月からの所得制限には否定的な声が聞かれました。港区の麻布界隈に住む、年収1400万円の40代男性はこう語ります。
「年収3000万円を超えるような人は気にしないのでしょうが、1400万円くらいだと児童手当はアテにしちゃう収入です。だいたい、所得税を33%取られた上に住民税や年金保険料などを引かれると、ざっと半分を納めている感覚です。それなのに、恩恵はほとんどない……。2人目が生まれたばかりで、子供は好きだから本当はもう1人欲しいくらいですけど、家計のことを考えると厳しいです。子育て層に厳しい社会だなって実感しています」
港区に住む30代女性は外資系コンサル会社に勤めていて、自分の年収が2500万円ほど。妻が働き夫は専業主夫という家庭です。彼女はこう話してくれました。
「一見、“2500万!”って思うじゃないですか? けれど税金も高いし、このへんは家賃も高いし、子供は2人とも私立で学費も高い。だから余裕があるとは言えません。老後のことも心配です。なんで身を削って働いて税金を納めているのに、月1万円の児童手当まで奪われるのか、納得できない」
児童手当と同様に、年収によって線引きをされたのが、新型コロナウイルス禍で影響を受けた子育て世帯を支援するために配られた「臨時特別給付金」です。18歳までの子供1人につき10万円相当の給付を行うという大規模なものでしたが、年収960万円以上(扶養家族3人の場合)の世帯は受け取ることができませんでした。
臨時特別給付金をめぐって、ママ友との微妙なやりとりがあったと語ってくれたのは江東区・豊洲のマンションに住む30代の久美子さん(仮名、以下同)です。給付金が配られる頃、子供の塾が同じ玲奈さんにこう声をかけられたそうです。
「臨時特別給付金、あれけっこう助かるよね? うちは子供3人だから30万円ももらえるみたい。久美子さんちは20万円でしょ?」
久美子さんの夫の年収は1100万円ほど。もちろん臨時特別給付金はありません。
「うちはもらえなくて」と咄嗟に答えてしまった久美子さん。玲奈さんの顔色が変わりました。