米国のバイデン大統領は8月9日、中国との競争を念頭に半導体を中心に国内産業の競争力を強化することを目的とした「CHIP(半導体生産の支援につながるインセンティブの創設)および科学法案」に署名し、成立させた。
半導体生産に投資する企業に対して減税したり、半導体関連を含め科学技術の研究開発に多額の予算を割り当てたりするだけならまだしも、5年間で総額527億ドル規模の産業ファンド(CHIP)を組成、米国内で半導体の生産を行う企業などに対して資金援助するという。
これは、米国がこれまで散々批判してきた中国による“国家産業ファンドを使った補助金政策”そのものだ。さらに法案の中身を細かく見ると、もし企業がこの法案を通じて資金援助を受けた場合、10年間、中国で新たな半導体工場を作ることも、既存の中国工場において先進的な生産ラインを拡張することも禁止される。
当然、中国側は強く反発している。商務部は18日、定例の記者会見を開いたが、その中で中国の見解をはっきりと示している。
「これは典型的な差別的産業保護政策であり、対象企業に対して中国での正常な経済活動、貿易、投資に制限を加えるものである。市場のルールや国際貿易の規則に著しく反しており、グローバルに広がる半導体サプライチェーンを捻じ曲げ、国際貿易に混乱をもたらすものだ」として、米国を厳しく批判している。
株式市場は政策の効果に否定的
果たしてこの政策で半導体工場は米国に戻ってくるのだろうか。株式市場の見方は否定的だ。
たとえば、インテルの株価をみると、52週高値(場中ベース、以下同様)は1月12日に記録した56.28ドルで安値は8月22日に記録した33.73ドル。直近で安値更新中である。
また、アリゾナで新工場を建設中のTSMC(台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング、ニューヨーク上場)では、高値は1月13日に記録した145.0ドルで安値は7月5日に記録した73.74ドル。8月22日の終値は85.24ドルで戻りはしているが、7か月かけて下落した分の16%を戻したに過ぎない。
市場参加者たちは、政策の効果は高くないとみているようだ。
中国本土では様々な意見が沸き起こっているが、一例として光明日報(8月20日)が報じた北京工商大学の于強教授による小論文を紹介しておこう。
「米国では半導体生産に必要な質の高い従業員を適正なコストで十分な量を集めることができない」「半導体生産工場の設備投資は巨額であり、5年間で527億ドル程度の資金量ではインパクトは小さい」「少額の資金を得るために世界最大の中国市場を失うようなことは企業にとって合理的ではない」などの理由から、このやり方では米国に半導体生産を回帰させることは難しいだろうと結論付けている。