岸田政権はスタートアップ担当相(革新的なアイデアで短期的に急成長する企業)やGX(グリーントランスフォーメーション=温室効果ガスの排出につながる化石燃料などの使用を再生可能エネルギーや脱炭素ガスに転換し、経済社会システムや産業構造を変革すること)実行推進担当相など、新たな大臣ポストを新設した。
では、こうした「担当大臣」はどこまで機能しているのだろうか。経営コンサルタントの大前研一氏が、「担当大臣」を濫造する政府の問題点について指摘する。
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第2次岸田改造内閣の顔ぶれについては、旧統一教会との関係や派閥配慮の人事にばかり注目が集まった。結果的に、その直前に鳴り物入りで新設された2つの担当大臣──スタートアップ担当とGX実行推進担当──については、ほとんど話題にならなかった。
そもそも、この手の「担当大臣」の存在意義自体が私には皆目わからない。
総理大臣を除く国務大臣の数は、内閣法で「定員14人・上限17人」と定められているが、特別法によって増員が可能で、現内閣は「定員16人・上限19人」だ。この人数の中で内閣府に「特命担当大臣」、内閣官房に「担当大臣」が置かれ、各国務大臣が兼務している。
内閣府の「特命担当大臣」は、複数の省庁にまたがる長期的な重要課題に対応し、「防災」「沖縄及び北方対策」「金融」「消費者及び食品安全」「少子化対策」の5つは必置で、他に「経済財政政策」「規制改革」「デジタル改革」「原子力防災」「海洋政策」「宇宙政策」「地方創生」「男女共同参画」「クールジャパン戦略」「アイヌ施策」などが置かれている。
内閣官房の「担当大臣」は、緊急対応すべき政策ごとに首相の判断で任命できる。第2次岸田改造内閣で設置されているのは「スタートアップ」「GX実行推進」「経済再生」「デフレ脱却」「新しい資本主義」「デジタル田園都市国家構想」「経済安全保障」「産業競争力」「行政改革」「国土強靭化」「拉致問題」「領土問題」「ワクチン接種推進」「新型コロナ対策・健康危機管理」「全世代型社会保障改革」「女性活躍」「こども政策」「孤独・孤立対策」などである。
結局は成果ゼロ…まさに「看板倒れ」
この多すぎる看板を各大臣に割り振っているから、担当大臣の所管範囲が不分明になっている。たとえば、財務大臣は金融担当とデフレ脱却担当を、経産大臣は産業競争力担当やロシア経済分野協力担当を、デジタル大臣はデジタル改革担当を兼務しているが、もとより各大臣はそれらの業務も所管しているはずであり、屋上屋を架している。
その一方で、経済再生担当大臣が新型コロナ対策・健康危機管理担当や全世代型社会保障改革担当を、国家公安委員長が国土強靭化担当や領土問題担当を兼務しているのは、開いた口がふさがらない。新型コロナ対策や社会保障改革は厚生労働大臣、国土強靭化は国土交通大臣、(外国と係争中の)領土問題は当然、外務大臣が担当すべきである。