長らく「不景気だ」といわれてきたが、いまの日本ほど異常な経済危機があっただろうか。物価高騰と上がらない賃金の背景にあるのは、急速に進んでいる「円安」だ。
10月20日には、「1ドル=150円台」を突破した。バブル期の1990年8月以来、実に32年ぶりの驚異的な円安だ。今年3月までは1ドル=115円台が続いていたため、わずか半年で、日本円はドルに対して30円以上も下落したということになる。
歴史的な急ピッチで進む円安を受け、政府・日本銀行は9月22日にドルを売って円を買う「為替介入」に踏み切った。その規模は過去最大の2.8兆円にも上り、一時は1ドル=140円36銭台にまで回復。しかし、その日のうちに145円台に戻り、その後1週間足らずで元の水準に。政府・日銀がようやく重い腰を上げたというのに、円安は止まるどころか、さらに進む一方だ。
【追記:10月21日、1ドル=151円台後半まで円安が進んだ後、政府・日銀は再び為替介入を実施したと報じられている。一気に5円以上、円高に動いた】
そもそも、円安とは「外貨に対して、日本円の価値が下がること」をいう。3月時点では、アメリカで1ドルで売られている商品は115円あれば買うことができたが、円の価値が下がっているいまは、同じ商品を買うのに、148円払わなければならないということ。
その結果、輸入品はもちろん、輸送費、国内生産のための原材料費も高くなり、国内のあらゆるものの値段が上がっているのだ。
政府・日銀は円売りの流れに歯止めをかけようと為替介入に踏み切ったのだが、その効果はあっという間に薄れてしまった。明治大学政治経済学部教授の飯田泰之さんが解説する。
「世界では1日約7兆ドル(日本円で約1000兆円)もの規模で為替取引が行われており、円とドルの取引に限定しても、1日で100兆~130兆円規模が取引されています。その巨大な市場に、日本が単独でほんの3兆円足らずのお金を入れたところで、焼け石に水。“これほどの円安なのに、政府は何もしないのか”という国民の批判を避けるため、効果がないとわかっていながら、とりあえずのアリバイづくりをしたに過ぎません」
過去最大級の為替介入などどこ吹く風で、円安はひたひたと進んでいる。
※女性セブン2022年11月3日号