遺産相続においてトラブルの原因となるのが「隠し子」の存在だ。被相続人の死後に隠し子が発覚した場合は、さらに事態は複雑になり、遺産の分配を巡ってもめてしまうケースも──。ここでは38才主婦の実体験を紹介するとともに、専門家に解決策を聞いた。
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通夜の席に突如現れた父そっくりの男の正体は…
父が先日、80才で亡くなりました。食道がんで1年ほど闘病しましたが、母(64才)や私(38才)、妹(36才)をはじめ、孫たちに見守られ、安らかな最期でした。私たちは父が40代のときにできた娘ということで、本当にかわいがってもらい、これまでに怒られた覚えはありません。母とも一回り以上年が離れているということもあって、まるで三姉妹のように大切にしてもらいました。
父の遺影は50代の頃の写真にしたのですが、葬儀社の担当者から、「イケメンですね」とほめられるほど。なんせ父は20代の頃、俳優をしていたほど目鼻立ちが整っていたんです。やさしくてイケメンの父は私たち家族の誇りでした。
事件はそんな父の通夜の席で起こりました──。その日、葬儀場に突如、遺影の中の父が抜けて出てきたのではないか……というにはガラが悪いのですが、それでも目鼻立ちが父にそっくりな“見知らぬ男”(56才)がやってきたのです。しかも死者を弔う気がない、というような薄汚れたワイシャツにチノパン、サンダル姿で……。
その男は、母を見定めると、真っすぐにやってきて、父の遺影を顎でしゃくりながら、大きな声で、
「おれ、この男の息子です。知ってますかねえ。ちょっと話があるんスけど。ここで言っちゃってもおれとしては構わないんですが、どうします?」と……。葬儀場が静まり返ったことは言うまでもありません。
母は父に離婚歴があることは知っていましたが、前の奥さんは亡くなったと聞いており、息子がいることまでは知らなかったようです。父の死に憔悴していた母は、さらに顔が真っ青になるほどのショックを受け、いまにも倒れそうに……。そこで、私が別室で応対することにしました。
「おれはオヤジが24才のときに生まれています。おふくろはとっくに死んでいますがね。で、あいつの遺産っておれの分もありますよね」
と、こう言うわけです。なぜ父の死を知ったのかといえば、地方紙に掲載された葬儀告知記事を見たとのこと。父は会社を経営していたので、「家族葬にする」という旨の広告を出したのですが、まさかそれを見ていたとは……。
その日は「調べてみます」と言って、お引き取りいただきましたが、翌日にすぐ電話がきました。母は寝込んでしまうし、妹夫婦は、「あんな失礼な人に渡したくない」と大騒ぎ。
私の夫が戸籍を確認すると、確かに父には息子がいました。そうなると彼には遺産を相続する権利があります。戸籍を見てさらにわかったのは、父の離婚歴は1回ではなく2回だということ。例の男は最初の結婚のときの子供で、2回目の結婚のときにも、なんともう1人息子がいることまで判明……。父だけでなく、父方の祖父母もそのことを隠していたことが、明るみに出たわけです。
いまは、私たちの家族と、男の間で分配を巡ってもめています。妹夫婦は、「葬式をめちゃくちゃにした男には1円たりとも渡したくない」と激怒。一方、男は、「おれが母子家庭で苦しい思いをしているときに、お前らはいい生活をしていた。遺産は分けて当然だろう」と毎日のように母に電話をかけてくる。
遺産といっても、両親が住んでいた古いマンションと3000万円の貯金。私は相続放棄して、母に全額を渡し、老後資金にしてもらおうと思っていたのですが、男の登場で予定が狂いました。
相続放棄の期限の3か月が過ぎ、次は相続税の納付期限までに決着をつけたいのですが、現在は膠着状態。法律的には分配するのが正しいのでしょうが、「息子」対「母&妹夫婦」が感情的になっていて話し合いが進みません。
さらに、いまだ連絡先がわからない、2人目の息子もいつ何を言ってくるかわかりません。まさか最後の最後に、こんな秘密を父に突き付けられるなんて‥‥。せめて、隠し子のことも含めて遺言書を残してくれればよかったのにと、仏壇に手を合わせ、父の男前な遺影を恨めしく眺めつつ、愚痴る毎日です。(38才・主婦)