「悪い円安」が止まらない。為替市場では円が売られ、1年前の1ドル=110円前後から1ドル=150円近くまで急落した。専門家の間では「1ドル=200円まで円安が進む」という見方もあり、そうなれば円の価値は昨年比で約半分になる。
記録的な円安は、日本から労働力を奪っていく。給料の額面は変わっていないように見えても、ドルベースでは給料が半分に減るということだ。
日本の平均賃金は、OECD加盟(いわゆる先進国)の34か国中24位、韓国(19位)より低い。これは1ドル=109円だった2021年のデータで、「200円」で比較するとギリシャやラトビアなどにも抜かれて最下位水準になり、OECDに加盟していない中国とほぼ並ぶ。経済評論家の加谷珪一氏が指摘する。
「中国は都市と地方の貧富の差が激しいが、香港の1人あたり所得は日本より高く、北京、上海などの大都市もそれに近づいている。ベトナムやインドネシアも急速に発展している。日本のGDPは現在、米国、中国に次いで世界3位だが、いずれ人口が多いインドネシアなど新興国に抜かれるでしょう」
経済大国からの転落である。そうした“日本経済の落日”を敏感に感じているのが外国人労働者だ。
円安でドルベースの手取りが減り、本国の家族への仕送りがままならない彼らは、他の国で働くために日本を逃げ出そうとしている。
一方で海外から見たら円安ニッポンは物価が安く、旅行先としては魅力的だ。海外からの観光客は増え、インバウンド需要は期待できるだろう。
円安で日本の労働力が安くなれば、外国企業が日本に工場進出して経済復活につながるという指摘もある。が、労働力不足の日本から外国人労働者が逃げ出せば、労働力不足はもっと深刻化する。
「円安が進み、価値の下がった日本への投資は行なわれず、将来、日本人が海外に出稼ぎに行くようになるかもしれません」(同前)
※週刊ポスト2022年11月11日号