「後釜がいない」といわれて久しいソフトバンクの孫正義氏だが、ここにきて後継者レースに動きが。孫氏に名指しされた男とその対抗馬たちに注目が集まる。【前後編の前編】
「守りに徹する」
「決算発表でのプレゼンを私がするのは当面の間は今日が最後。最後のメッセージにしたい」
11月11日、2023年3月期第2四半期決算説明会の冒頭で、ソフトバンクグループ(SBG)の孫正義会長兼社長はこう切り出した。
これまで孫氏は業績の好不調にかかわらず、四半期ごとの決算を自分の言葉で発表し、SBGのビジョンを伝えてきた。
そんな孫氏の突然の発言に場内の緊張が高まるなか、こう言葉を続けた。
「日常の経営的な業務は、“後藤くん”を中心に行ない、ほかの経営幹部にも権限を委譲し、オペレーションを継続してもらう」
「今後の経営については守りに徹する。ソフトバンクグループが守りを固めるには、私よりも“後藤くん”が中心になるのが適切である」
30分弱の挨拶を終えた孫氏は、業績に関する説明を最高財務責任者で専務執行役員の後藤芳光氏(59)に任せて、説明会の途中で退席した。
全国紙経済部記者が指摘する。
「異例の発言に孫さんの病気引退説まで飛び交ったほどでした。彼自身は健康体であることを強調しましたが、ここまで踏み込んだ発言は珍しい。65歳となった孫さんの後継者争いにも影響するかもしれません」
SBGを長く悩ませるのが孫氏の後継者問題だ。
「60代で後継者にバトンタッチする」。かねてよりそう公言してきた孫氏だが、ナンバー2は定着せず、60代に入ってますます経営にのめり込んだ結果が“後継者不在”の現状だ。
2010年7月には後継者育成のため『ソフトバンクアカデミア』を創設したが、12年経過した現在も跡継ぎは現われず。
「アカデミア関係者からは、なんのための創設だったのかと不満が漏れている」(前出・経済部記者)