次々とホームに滑り込んだ新幹線が、途切れることなく新大阪方面に折り返していく東京駅。制服に身を包んだエクスプレスドレッサーたちが出迎える。年末年始で乗客が多いラッシュ時も、ドレッサーたちのおかげで快適な車内が保たれた。わずか10分以内に車内を元通りの状態に戻す現場に迫ると、その道具も手際も“進化”していた──。
1時間に約12本、東京駅に到着した東海道新幹線は最短15分で折り返し新大阪方面へ向かう。その間、ホームでよく見かけるスタッフたちが神業のごとき手際の良さで1323席の座席やトイレなどを整備する。
海外からも称賛の声があがるスタッフは、単なる清掃員ではない。「エクスプレスドレッサー」と呼ばれる“ドレスアップ”の達人なのだ。新幹線メンテナンス東海(株)企画部・角谷隆之氏が説明する。
「私たちの仕事は“清掃にして清掃にあらず”です。乱れたところをきれいにするだけでなく“ドレスアップ”した車内空間を提供するサービス業という自覚を持って働いています」
16両編成の車両の整備は1チーム36人体制で行なわれる。早出と遅出を合わせて総勢8チームの仕事は、到着した新幹線の乗客の出迎えから始まる。朝10時までは「おはようございます」、それ以降は「ありがとうございました」と挨拶。列車とホームのすき間がある場所では足元への注意を払う。
乗客の降車を確認した後、車内に乗り込み、まずは大きなゴミを回収。息つく間もなく座席の向きを新大阪方面へ手動で回転させる。その後、スマホと連動したAI機器「サーモット」で座席の濡れをチェック。「サーモット」という最新機器の導入は、ドレッサーたちの作業を劇的に改善させた。従来は「座席払いほうき付き濡れ検知器」という器具を使って全座席を確認していたが、中腰で作業するためドレッサーたちの身体的な負担が大きかったのが課題だった。なお、1車両は最大で100席におよぶ。
床に落ちている小さなゴミは、「鋭角ラバーほうき」できれいに掃き取る。この器具は、ほうきとモップの機能を併せ持つもので、掃きと同時に多少の濡れなら拭き取ることができる。さらに、「もたれ」と呼ばれる、座席の上部に掛けられる白い布を交換。トイレや洗面所などの水回りの整備は担当に分かれて進める。手鏡で荷物棚の忘れ物を入念に確認した後、チーフが最終的なチェックを行ない、ホームに戻る。