経済動向を読み解くうえで、重要な経済指標のひとつが米国の雇用統計だ。『世界一楽しい!会社四季報の読み方』などの著書がある個人投資家で株式投資講師・藤川里絵さんが解説するシリーズ「さあ、投資を始めよう!」。第29回は、「米国の雇用統計」の基礎知識と注目すべきポイントについて。
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経済指標を読み取ることは、資産運用をする上でも、日常生活を豊かに過ごすためにも重要です。一度、理解してしまえば、あとは定点観測するだけ。その積み重ねが、みなさんの経済リテラシーを何倍にも高めてくれます。
前回は、世界中で今もっとも注目されているCPI(消費者物価指数)について解説しました。今回は、“今”だけでなく、常に意識されている米国の雇用統計について解説します。
毎月第一金曜日のNY時間8時30分に発表
雇用統計(Current Employment Statistics)は、米国労働省労働統計局から発表される雇用情勢を示した統計指標。毎月第一金曜日のニューヨーク現地時間午前8時30分に発表されます(*日本時間では、夏時間は午後9時30分、冬時間は午後10時30分)。
全米の約16万の企業や政府機関のおよそ40万件のサンプルから算出され、毎月12日を含む1週間を対象に調査されます。
公表項目は、失業率、非農業部門就業者数、建設業就業者数、製造業就業者数、小売業就業者数、金融機関就業者数、週労働時間、平均時給、労働参加率など多数あります。
FRBの金融政策の決定に大きな影響
雇用統計の結果は、FRB(連邦準備制度理事会)が行う金融政策の決定に大きな影響を与えます。FRBのおもな仕事は、景気の過熱を抑えることと、景気の冷え込みすぎを防ぐこと。いわば上にも下にも景気が行き過ぎないようコントロールする役目を担っていますが、行き過ぎを示唆するサインが出てきた場合は、速やかに行動しなくてはなりません。
一般的には、雇用が強いのは景気がよいというサインなので喜ばしいことですが、行き過ぎるとやっかいなことになります。
というのも、「雇用が旺盛」→「企業は人材を獲得するために賃金を上げる」→「消費や投資が増える」→「モノやサービスの需要が供給より大きくなる」→「物価が上がり過ぎる」となれば、今もっとも懸念しているインフレ率の上昇につながります。そうなるとFRBは政策金利の引き上げなど、金融引き締めを行い、物価が上昇しすぎないよう管理します。当然、金融引き締めは、株式市場にとってネガティブなことなので市場関係者は雇用統計を注視するのです。