法律に縛られず、愛するパートナーと支え合って暮らしていく事実婚は、どちらかが先立った場合に予期せぬ相続トラブルに巻き込まれることがある。正しい遺言書を作成することは、残ったパートナーの未来を守ることにつながる──。
多様性が広く認められるようになり、人々の生き方の選択肢は広がっている。「結婚」という考え方もその1つだ。内閣府が2021年度に実施した意識調査によると、成人人口の2~3%が籍を入れない「事実婚」だと推察されるという。
「名字・姓の変更が嫌だから」という理由から、「家族や周囲の状況」からやむにやまれず入籍しない選択をするケースまでさまざまだが、今後、事実婚というパートナーとのつながり方が、より広まることは大いに考えられるだろう。
今年の誕生日で傘寿を迎える加賀まりこ(79才)は、パートナー・A氏との事実婚関係がちょうど20年を数える。元は麻雀仲間だったというテレビプロデューサーのA氏に「恋人としてつきあってほしい」と伝えたのが、59才のとき。以来、シングルファーザーとしてA氏が育ててきた自閉症の息子とも、本当の親子のような関係を築いている。2021年11月に公開された映画『梅切らぬバカ』では、現実とリンクするように、自閉症の息子を持つ母親役を好演した。映画の主演は、54年ぶりのことだった。
加賀とA氏との絆は強い。一方で、戸籍上の夫婦ではないふたりが求めたのが、「遺言書」を作ることでの心の結びつきだった。
《自閉症の子をもつ親にとって、自分が先に死んだらこの子はどうなるんだろう……?というのは永遠の課題よね。ついこの前も、今後のことを考えて遺言書をつくっておこうと、ふたりで司法書士の事務所に行ったんです。親である彼とまったく同じ気持ちになれるわけではないけど、彼の大変さを少しは分かち合いたいと思うから》(別冊ESSE、2022年11月28日発売)
多くの人が、遺言書の作成は終活の第一歩だと感じていることだろう。一方で、加賀のような事実婚の場合、遺言書はパートナーとの“愛の証”にもなる。相続実務士で『夢相続』代表の曽根恵子さんが解説する。
「遺言書が実際に効果を発揮するのは死後ですが、生前にパートナーと話し合って作成することは、踏み込んだ話までできる関係にある証でもあります。今後もいい関係を築いていきたいからこそ作成するものであることを考えると、ある意味、婚姻届の代わりと言ってもいいでしょう。加賀さんも《分かち合いたい》とお話しされていたように、お互いを大切に思っているという気持ちを確認し合うことができるのです」