損害賠償金だけでなく慰謝料も
太田垣さん:この物件は築何年ですか?
ハセジュン:40年くらいだと思います。
太田垣さん:築年数が古い物件の場合、こういった配管などのトラブルが起きることが、ある程度想定できますよね。借りる人は最初からそういった可能性を想定しておいた方が予防になると思います。入居前に壁の傷などの写真を撮っておいて、退去時の修繕費トラブルに備えるとか。
ハセジュン:借りる側の私たちも、住む物件についてあらかじめ調べ、備えておかないといけなかったんですね。反省~。いまからじゃたいした証拠もないし、引っ越したらもう交渉できないんでしょうか。
太田垣さん:引っ越した後でも交渉はできますよ。いまやるべきことは、契約書の見直しと、診断書を出してもらってカビによる健康被害を証明すること、そして、黒カビが残った部分の写真をたくさん撮ることですね。集めた証拠で諦めずに交渉することも大切です。
ハセジュン:さきほど、損害賠償金だけでなく、慰謝料も要求できるという話が出ましたが、いくらくらい請求できますか?
太田垣さん:慰謝料の適正額を素人が判断するのは難しいんです。相手によっては、「1万円程度渡せばいいか」と、軽く考えるかもしれません。被害者側の認識とずれていることが多いので、相手を納得させられる金額を具体的に示すことが大事です。たとえば、黒カビによる病気で仕事ができなかったら、休んだ分の賃金を計算する。通常、日給1万円稼ぐ私が10日間休まざるを得なかったので、10万円払ってください、という具合です。アルバムだったら、アルバムの台紙代、プリント代などから計算してもいいでしょう。
ハセジュン:話し合いとは、戦いではなく、大家や管理会社を納得させるためのプレゼンテーションということですね。
太田垣さん:そうです。ただ、人によっては、交渉自体がストレスになるケースもあります。こんな物件を選んだ自分が悪い、もう嫌なことにはかかわらず前を向きたいという人もいます。ですから、賃貸トラブルが起きたら、謝ってもらいたいのか、損害賠償金がほしいのか、裁判を辞さずに戦い抜くのか、自分がどうしたいかをはっきりさせておくことが大切です。
ハセジュン:黒カビだらけの家になったときは、なんでうちだけ……と、悔しかったし悲しかったけど、誰にでも起こりうるんですよね。知識があれば回避できることもある。トラブルを解決する鍵は、借りる側が持っているのかもしれません。私もさっそく、いまできる証拠集めから始めてみます。
【プロフィール】
OAG司法書士法人代表・太田垣章子さん/30才で離婚後、仕事と育児をしつつ司法書士試験に合格。2600件以上の賃貸トラブルを解決に導く。『賃貸トラブルを防ぐ・解決する安心ガイド』(日本実業出版社)など著書多数。
※女性セブン2023年3月16日号