賃貸物件を退去する際、入居者には元の状態に戻して引き渡す「原状回復義務」がある。では、それは部屋の中の見える部分だけでなく、見えない部分についても適用されるのか。賃貸物件のトラブル解決に定評のある司法書士・太田垣章子さんが、ネット回線の原状回復義務に関するトラブルの相談をもとに解説してくれた。
【相談】
結婚が決まり、5年間住んだマンションから退去することになりました。築40年と古い物件で、大家が最上階に住んでいるアットホームなマンションでした。退去のときは、管理会社と大家の双方が来てくれて、確認もスムーズでした。
大家からは結婚を祝福され、和やかな雰囲気で、契約終了しようかというとき……。親切のつもりで、「ネットの回線はそのまま残していきますね」と言ったんです。すると、大家の表情が曇り、「回線って何?」と──そこで私は3年前に、インターネットをするための光回線工事をしたことを伝えました。
そもそも工事をするときも、大家に口頭で伝え、「電話の工事? いいわよ」と言ってくれたことなどを伝えましたが、大家は、「そんな話は聞いていない」の一点張り。
そこで私は、「インターネット回線が残っていれば、次に入る人も便利じゃないですか」と熱弁しました。古い物件なので、工事に手間もかかる。便利な回線を残しておいてあげるんだから、感謝されることはわかりますが、怒られる筋合いはないと思ったのです。
しかし大家は怒って帰ってしまい、管理会社からは、
「回線の取り外し工事の費用……まあ、1万円くらいでしょうけれど、それを引いた分の敷金を返します」
と言われました。でも、納得できません。回線工事といっても、壁に穴をあけたわけでもなく、見た目はまったく変わりません。それなのに原状回復っておかしいと思うんです。こういう場合でも、原状回復費用を払わないといけないんですか?(38才女性・派遣社員)