もし家族ががんになったら、自分が事故に遭ったら、コロナは、認知症は──尽きない不安のすべてに備えようとしたら、お金がいくらあっても足りない。実はそれ、保険会社の思うつぼ。まずは、いままで「本当はいらない保険」にいくら払ってきたか、思い返してみてほしい。
宮崎県の会社員・A子さん(49才)はこう話す。
「子供の頃から私名義で入っているがん保険を解約しようとしたら“いまやめたらもったいないですよ”と言われました。確かに、長年払い続けているし、父ががんになったときは100万円もらえたし……家計は苦しいですが、やっぱり続けることにします」
「いまやめたら、もったいないですよ」──これこそ、保険会社が解約を引き留める“常套句”だ。オフィスバトン「保険相談室」代表の後田亨さんが言う。
「がんだろうと、事故だろうと、病気やけがにかかるお金は、公的保障だけで充分まかなえます。医療費の自己負担は3割で、たとえ治療費が高額になっても、高額療養費制度を使えば、月10万円もかかりません。
医療保険にはがんや女性特有の疾病など、目的別に分けた商品が多々あります。しかし、公的な健康保険の高額療養費制度はどんな病気でも、また入院・通院・手術のどれでも包括的に対応している。種類別の医療特約はおろか、医療保険自体、必要ありません」(後田さん)
もちろん、高齢になれば病気のリスクは上がるが、それに備えるには、保険料は高すぎるのだ。生命保険会社での勤務経験を持つファイナンシャルプランナーの横川由理さんの試算では、80才女性が医療保険に加入した場合、支払う保険料は10年で100万円を超える。しかし入院しても、受けられる保障は1日5000円が最大60日だけだ。
「60日入院して30万円もらうために、100万円も払い続ける意味があるでしょうか? 確かに、大がかりな手術や特殊な治療を受ければ、大きな保険金を受け取れる場合もあります。しかしそのためには、保険料の高い高額な保障に入る必要があります。
実際、月約9000円の医療保険料を払い続けていた親類が1週間入院した際は、5000円を7日間もらっただけでした。たった3万5000円のために、100万円以上かけていたんです。たとえ月々の保険料が高いと感じなくても、払い続けた場合の総額を考えてほしい」(横川さん)