地方には、空前の“土地バブル”が始まっている場所がある。かつて熊本県菊陽町は、阿蘇山を望み、ニンジン畑が広がる長閑な風景を趣としていた。だが、2021年からそんな景色が一変した。
田畑だった土地には「建設計画のお知らせ」の看板が林立し、飲食店やパチンコ店は大量の客で長蛇の列。地元企業も続々と自社ビルの建設に乗り出しているという。
この好景気をもたらしたのは、要塞たる風格を持つ半導体世界最大手「台湾積体電路製造(TSMC)」の熊本工場だ。
熊本県内で事業展開するコスギ不動産ホールディングス取締役の小杉竜三氏が語る。
「約1700人の従業員に関連企業を加えた7000~8000人の住居需要によって、菊陽町と隣接する大津町を中心に土地価格が2~3倍になりました。それでも住宅はまだまだ不足状態です。第2工場の話もあり、活況は10年ほど続くと期待しています」
2024年12月の操業開始を目指し、現在建設が進む。菊陽町の昨年からの地価上昇率は、31%と全国トップを記録している。
投資規模はTSMCの5倍の5兆円
一方、北に目を転じると、純国産企業も同様の動きを加速させている。2月28日、半導体メーカー「Rapidus(ラピダス)」が、北海道千歳市に新工場を建設すると表明したのだ。
同社の立ち上げには、トヨタ自動車やソフトバンクをはじめとする国内有力8社が総額73億円を出資し、政府からも700億円の補助金が出された。投資規模はTSMCの5倍となる5兆円だ。
とはいえ、試作ライン立ち上げは2025年とまだ先。建設予定地を訪れてみても雪の残る原野が広がるばかりだが、バブルの萌芽も見えている。
千歳不動産業組合事務局長でジョイトーク代表取締役の梶田多恵子氏はこう話す。
「ラピダスが千歳に新工場を建設すると発表した時、みんなで大騒ぎになりました。千歳だけでなく札幌や苫小牧など道内の不動産業者からも住宅や店舗の供給を見込み、連携を模索する連絡が来ています。もともと千歳は地価が上昇傾向でしたが、今後はさらに盛り上がるんじゃないですかね」
今からこうした地域に不動産を持てば、将来は億万長者も夢じゃない。
※週刊ポスト2023年3月31日号